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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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五輪の「レガシー(遺産)」が語られるようになったのは…

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 五輪の「レガシー(遺産)」が語られるようになったのは、そう古いことでない。開催都市の負担増で招致に乗り出す都市が減る中、五輪開催のメリットを強調して18年前から五輪憲章に盛り込まれたのである▲前回東京五輪での新幹線や首都高の整備、国民的な自信回復を体験した日本人には受け入れやすい考えなのかもしれない。で、コロナ禍などまだ夢にも思わなかった一昨年、今度の東京五輪のレガシーについて尋ねた意識調査がある▲三菱総研のこの調査で「実現してほしいレガシー」のトップは何だったか。「地域活性化」「競技場有効利用」「経済成長」などではない。まるで2年後を見抜いたような、「国民も来訪者も安心する世界で最も安全な社会」だった▲1年延期された2020東京五輪は、「安全安心」を掲げながらコロナの爆発的感染拡大と同時進行の大会になってしまった。原則無観客、選手と市民生活とを遮断するバブル方式による、五輪史上例のない「祝祭なき五輪」だった▲選手たちの織りなす心震わせるドラマと、それをテレビで共有しながらも日々の感染状況急変におびえる現実と――。SF小説のパラレルワールド(並行世界)のような17日間は、この先どのように語り伝えられることになるだろう▲未来へ残す「レガシー」は、むしろ大会が閉幕した今からすべてを振り返り、検証し、まとめ上げねばならない。スローガンではない本当の「安全安心な社会」や「多様性と調和」はそれなしには残せまい。

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