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問う ’21夏 コロナの危機管理 「根拠なき楽観」排さねば

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 新型コロナウイルスの感染「第5波」が、かつてない勢いで広がっている。

 全国の新規感染者数はきのう初めて2万人を超えた。30を超える都道府県で「ステージ4」(感染爆発)相当となっている。政府の分科会は、東京都内で人出を緊急事態宣言発令前の5割にまで減らすよう求めた。

 病床が逼迫(ひっぱく)し、入院できない患者が自宅療養を余儀なくされている。コロナ以外の診療にも支障が出ており、専門家は「災害時の状況に近い」と警鐘を鳴らす。

 世界的な流行ではあるが、事態がこれほど深刻になったのは、政府の危機管理に大きな欠陥があったからだ。そのツケが、国民に重くのしかかっている。

 最大の問題は、政府が当初から楽観的な見通しに固執し、対策を怠ってきたことだ。

見誤った拡大のリスク

 約1年前の「第1波」の後、当時の安倍晋三首相は「日本モデルの力を示した」と胸を張っていた。欧米のロックダウン(都市封鎖)のような強制手段をとらなくても、自粛要請によって成果を出せたとアピールした。

 この体験が政府の慢心を生んだのではないか。休業要請に応じた事業者への経済支援などをコロナ対策の特別措置法に明記すべきだと自治体から要請されても、冬の「第3波」まで検討しなかった。

 一方で、感染収束後に予定していた旅行需要喚起策「GoToトラベル」を前倒しで始めた。人の移動は感染リスクを高めるにもかかわらず、旅行しても構わないという誤ったメッセージを送った。

 今夏の第5波では、高齢者でワクチン接種が進んだことから、重症者数はそれほど増えないと甘く見ていた。

 実際には、接種が進んでいない世代で感染が急拡大し、40~50代を中心に重症者が急増した。危機管理の基本である「最悪の事態の想定」がなされていなかった。

 政府は失敗を認めず、ワクチン接種率を欧米並みに高めることで乗り切ろうとしている。

 だが、欧米では若い世代で接種が思うように進んでいない。今後、ワクチンが効きにくい新たな変異株が現れる可能性もある。

 政府が楽観的な見立てを改めないままでは、失敗を繰り返すことになる。

 専門家の知見を軽視する姿勢も変わっていない。東京オリンピック開催をめぐっても表面化した。

 政府分科会の尾身茂会長は、パンデミック下での開催は「普通はない」と述べ、無観客にするよう提言した。だが、菅義偉首相は土壇場まで観客を入れることにこだわった。

 危機管理に当たる体制づくりも不十分だ。

 コロナ対策は、医療の拡充や感染対策、経済支援など各省庁にまたがる。内閣官房には感染症もカバーする危機管理組織があるが、主導的な役割を果たせていない。総合的に調整する司令塔役がいないのが実態だ。

体制と戦略の再構築を

 濃厚接触者を迅速に把握し感染の拡大を防ぐためには、デジタル技術の活用が欠かせない。しかし、専門知識がない厚生労働省に任せ切りで、機能していない。

 地方との関係も、いまだにギクシャクしたままだ。

 特措法では、宣言の発令や対象となる都道府県の選定などは首相の権限だ。一方で、事業者への休業要請や住民への外出自粛要請は都道府県知事に委ねられている。

 このため、休業要請の範囲をめぐって双方の見解が食い違う場面も目立った。足並みをそろえることが必要で、事前に調整する枠組みを早急に整えるべきだ。

 第5波で政府内には手詰まり感が漂う。国民に自粛疲れや「コロナ慣れ」が広がり、協力が得にくいと見ているからだ。

 だが、こうした事態を招いたのは、対応を誤ってきた政府自身だ。危機管理には国民の信頼が不可欠だが、首相は人々の不安にきちんと向き合ってこなかった。

 日本大学危機管理学部の福田充教授は、政府の対応について「達成すべき目標と、それに向けたロードマップを定めた戦略を立てていない。感染対策を検証して、次に生かすこともできていない」と指摘する。

 手をこまぬいていては国民の命と健康を守れない。政府は体制を立て直し、今後の戦略を明確にしなければならない。

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