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7月在京オーケストラ7月レビュー ③日本フィルハーモニー交響楽団

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沖澤は今回の定期が日フィルとの初共演となった (C)山口敦
沖澤は今回の定期が日フィルとの初共演となった (C)山口敦

 7月の在京オーケストラの公演リポートの第3弾は日本フィルハーモニー交響楽団の東京定期演奏会。一昨年、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し世界的注目を集める沖澤のどかが日本フィルに初登場し、メンデルスゾーンの交響曲第3番、ベルクのヴァイオリン協奏曲(独奏・三浦文彰)などで、変化に富んだ演奏を聴かせた。取材したのは9日の公演。(宮嶋 極)

 コロナ禍において日本のオーケストラからも引く手あまたの沖澤だが、日本フィルには昨年6月に客演が予定されていたものの公演が中止となり、今回が初共演となった。

 結論から言うと沖澤は自分の中に確固たるサウンド・イメージを持っていて(指揮者には不可欠な要素である)、それを実際の音楽としてオーケストラから導き出す手腕にも秀でたものがあった。将来が大いに期待できそうな指揮者である。それは初共演にもかかわらず日本フィルのサウンドを〝自分色〟に染め直したような音楽作りがなされていたからだ。

 その一例がダイナミックレンジ(音の強弱の幅)の広さである。力強いフォルテから弱音への転換が鮮やかで、音量が小さくなると、普通はあまり聴こえない木管楽器の旋律が美しく浮かび上がってくる。これによって生み出される音のコントラストは作品が持つ独特の陰影感の表出に効果を発揮していた。各パートのバランスが微細に調整されていることをうかがわせるこうした音作りは彼女のセンスを感じさせるものである。

 ベルクのコンチェルトでは三浦文彰のソロを柔軟に受け止めて複雑な作品を整然とさばいていく手腕も良かった。三浦も譜面を見ながら細かいニュアンスをしっかりと掘り下げて丁寧な演奏を披露した。

 また、この日のコンサートマスターは同団アシスタント・コンマスの千葉清加。ドイツのオケのように弓全体をたっぷり使った俊敏なボウイングによって弦楽器セクションをリードする姿は沖澤の目指す方向性の実現に大きな役割を果たしていたように思えた。なかなかのリーダーぶりである。彼女の肩書から〝アシスタント〟を外して〝コンサートマスター〟としてもいいのではないかとさえ感じたほどだった。

公演データ

【日本フィルハーモニー交響楽団 第732回東京定期演奏会】

7月9日(金)19:00、10日(土)14:00 サントリーホール

指揮:沖澤 のどか

ヴァイオリン:三浦文彰

コンサートマスター:千葉清加

モーツァルト:歌劇「魔笛」K.620序曲

ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」

メンデルスゾーン:交響曲第3番イ短調Op.56「スコットランド」

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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