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真夏のオーケストラの祭典「フェスタサマーミューザKAWASAKI 2021」が7月22日から8月9日までの間、ミューザ川崎シンフォニーホールをメイン会場に開催された。新型コロナウイルスの感染防止対策で一定の制約の下での開催ではあったものの、首都圏のオーケストラに加えてオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)など地方の団体も参加し、連日充実の演奏が繰り広げられた。その中からいくつかの公演をピックアップしてリポートする。初回はOEK(7月25日)とN響室内合奏団(28日)のステージを振り返る。
(宮嶋 極)
OEKの公演は桂冠指揮者の井上道義の指揮で、シューベルトの交響曲第4番とプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番(独奏・神尾真由子)、古典交響曲というプログラム。筆者は勤務先の感染防止対策の関係で今年に入ってから地方への出張を控えているため、首都圏以外のオーケストラのサウンドに触れたのは久しぶりであった。従って各方面から注目を集めたマルク・ミンコフスキとのベートーヴェンなどOEKの最近の演奏も一切聴くことができなかったので、新鮮な気持ちで向き合うことができた。
シューベルトは引き締まったアンサンブルによって音楽の構造をシンプルに描き出すような演奏。一方、プロコフィエフは井上が得意とする20世紀のロシアものとあって俄然(がぜん)、生気がみなぎった感もあった。コンチェルトでは神尾の激しさと繊細さがうまい具合に使い分けられたヴァイオリンに触発されるかのように、OEKの表現の引き出しがいくつも開けられた。それにしても神尾のヴァイオリン、随分とスケールが大きくなったように思えた。古典交響曲は井上の〝遊び心〟をメンバーひとりひとりがうまく受け止めているようで、長年にわたる両者の信頼関係が表れていた。万雷の拍手に応えて武満徹の「他人の顔」から〝ワルツ〟が演奏されても喝采はやまず、メンバーが引き上げた後のステージに井上が呼び戻されていた。

N響室内合奏団は第1コンサートマスターの篠崎史紀と弦・管・打楽器11人のN響メンバーにピアノとハーモニウムを加えた編成。シェーンベルクやベルクが編曲したウィンナ・ワルツ、マーラーの交響曲第4番室内楽版というウィーンにゆかりの深い音楽を集めた粋なプログラムであった。普段は聴けないスタイルのN響であることも興味をそそられる。ウィーンで学んだ篠崎のリードによって19世紀末から20世紀の初めくらいまでウィーンの街場のレストランや酒場などでこうした形で音楽が楽しまれていた光景が思い浮かぶような雰囲気が醸し出され、肩の力を抜いて楽しむことができた。マーラーでは小編成にもかかわらず豊かな響きが作られていたところにN響プレイヤーの力量がうかがえた。
2005年に首都圏のオケが競演する祭典として始まったフェスタサマーミューザだが、数年前から首都圏以外のオケもゲスト出演するようになった。今回OEKの演奏を聴くにつけ、来年以降、コロナ禍が収束した折にはゲスト枠をさらに増やして、ゆくゆくは日本全国のオケの一大祭典に発展してほしいものである。
公演データ
【フェスタサマーミューザKAWASAKI 2021】
ミューザ川崎シンフォニーホール
◆オーケストラ・アンサンブル金沢
7月25日(日)15:00
指揮:井上道義
ヴァイオリン:神尾 真由子
コンサートマスター:アビゲイル・ヤング
シューベルト:交響曲第4番ハ短調D417「悲劇的」
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調Op.19
プロコフィエフ:古典交響曲ニ長調Op.25
◆N響室内合奏団
7月28日(水)15:00
ヴァイオリン:篠崎史紀(NHK交響楽団 第1コンサートマスター)
ソプラノ:盛田麻央
ピアノ:入江一雄
ハーモニウム:山口綾規
フルート:甲斐雅之
オーボエ:池田昭子
クラリネット:松本健司
ファゴット:水谷上総
ホルン:今井仁志
打楽器:植松 透
打楽器:竹島悟史
ヴァイオリン:白井 篤
ヴィオラ:中村翔太郎
チェロ:市 寛也
コントラバス:西山真二
ヨハン・シュトラウスⅡ(シェーンベルク編):南国のバラ
ヨハン・シュトラウスⅡ(ウェーベルン編):喜歌劇「ジプシー男爵」から〝宝石のワルツ〟
ヨハン・シュトラウスⅡ(ベルク編):酒、女、歌
マーラー(クラウス・ジモン編):交響曲第4番(室内楽版)
筆者プロフィル
宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。