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オーケストラのススメ

音楽評論家の山田治生さんが、国内外のオーケストラの最新情報や鑑賞に役立つ豆知識などを紹介、演奏会に足を運びたくなるコラムです。

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オーケストラのススメ

~57~ 没後25周年、武満徹の「四季」

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武満徹(1930~1996)
武満徹(1930~1996)

山田治生

 今年は、ピアソラの生誕100周年ということで、「ブエノスアイレスの四季」がヴィヴァルディの「四季」とともに演奏されたりしているが、季節をテーマとした作品を数多く残した作曲家といえば、今年が没後25周年にあたる武満徹がまずあげられるであろう。

 武満の国際的に最も知られた作品の一つに「ノヴェンバー・ステップス」があるように、武満には秋をテーマとした作品が多い。「ノヴェンバー・ステップス」は、ニューヨーク・フィルの創立125周年を記念する委嘱作として1967年11月にニューヨークで初演された。この琵琶と尺八とオーケストラのための画期的な作品は東洋と西洋の違いを際立たせる。「ノヴェンバー・ステップス」と同じ編成の作品に「秋」という曲もある。ある意味、「ノヴェンバー・ステップス」を書き直した作品。武満は、よりロマンティックで、邦楽器とオーケストラが溶け合う「秋」を「ノヴェンバー・ステップス」よりも好んでいた。

 フランス革命200年を機に書かれた「ア・ストリング・アラウンド・オータム」は、独奏ヴィオラとオーケストラのための作品。独奏ヴィオラは、秋の景色のなかで自然を観照する人の役割をはたす。

 映画「燃える秋」では映画音楽だけでなく、挿入歌であり、ハイ・ファイ・セットが歌ってヒットした「燃える秋」も作曲している。また、武満は、晩年に、シャンソンの「枯葉」を弦楽四重奏用に、チャイコフスキーの「秋のうた」をクラリネットと弦楽四重奏用に編曲したりもしている。そのほか、雅楽のための作品に「秋庭歌」と「秋庭歌一具」がある。

 春の音楽としては、「グリーン」があげられる。「グリーン」は、「ノヴェンバー・ステップス」と同時期(1967年)にNHKからの委嘱で書かれた。フルートによる小鳥のさえずりのようなフレーズも聴かれるこの作品は、自らの娘をはじめとする子供たちにささげられている。

 夏には、広島の原爆をテーマに作られた映画「黒い雨」のための音楽がある。映画音楽「黒い雨」からは、弦楽合奏曲として「葬送の音楽」と「死と再生」が編まれている。「死と再生」は約10分を要する感動的な作品。

 「波の盆」も夏の音楽といえよう。ドラマ「波の盆」の舞台は1983年夏のハワイ。盆踊りや精霊流しのシーンもある。武満は最晩年にこのドラマのための音楽を演奏会用に編み直した。非常に美しく親しみやすいメロディーで書かれている。今年の東京オリンピックの閉会式でもこの音楽が使われた。

 冬には「ウィンター」がある。「ウィンター」は1972年の札幌冬季オリンピックのための委嘱作品として書かれた。武満は、チェレスタや複数のメタル系の打楽器を用いて、冬の硬質で澄んだイメージの響きを作り上げた。

 ほかに、武満には、大阪万博のために書かれた、4人の打楽器奏者のための「四季」という作品もある。これもメタル系の打楽器が数多く使われている。

 オーケストラで「武満徹の四季」というプログラムを組むとするなら、「グリーン」、「黒い雨」から「死と再生」、「ア・ストリング・アラウンド・オータム」、「ウィンター」の4曲が良いのではないかと思う。

筆者プロフィル

 山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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