「世界一多忙」な教員、休日に自腹の講習 免許更新制12年で撤廃
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教員免許に10年の有効期限を設け、更新時に講習の受講を義務づける「教員免許更新制」が廃止されることになった。時代の変化に合わせ、教員に新しい知識や技能を身につけてもらうのが目的だったが、現職教員の負担増や産休・育休の代替教員の不足につながるなど「負の側面」が露呈し、2009年度の導入からわずか12年で撤廃に追い込まれた。廃止に至った背景と今後の課題を探った。【大久保昂】
30時間の講習、8割超が「負担感じる」
教員免許更新制は、免許の有効期限前の一定期間に、大学などで30時間以上の講習を受けることを義務づけている。多くの教員は休日や夏休みに受講し、受講費用(約3万円)は自己負担だ。
「時間が限られている中で、義務的にやらされている感覚がつらかった」
岐阜県立高校の50代の男性教員は、免許更新講習のため大学に通った約5年前の日々をこう振り返る。当時は学年主任で、問題行動を起こした生徒宅への家庭訪問が休日に入ることもしばしば。免許更新講習の予約日と重なり、同僚に任せざるを得ないことがあった。「他の先生に迷惑をかけているという精神的な負担が大きかった」と話す。
特別支援教育や地域の産業史を扱った講座は「とても勉強になる内容だった」が、アクティブラーニングや防災教育など、通常の研修内容と重なるものもあり、「自腹で講習費を払ってまで聞く値打ちがあるのか」と疑問を感じたという。
30年以上教員をしてきた経験から、最も力を伸ばしてくれるのは、現場で生徒を相手にした実践だと考えている。「多くの先生はもっと生徒と向き合いたいはず。どの教員に聞いても、免許更新制はやめてほしいと答えるのではないか」
文部科学省が4~5月に幼稚園や小中学校、高校などの教員2108人を対象に実施した調査では、受講費用と講習時間について、「かなり負担に感じた」「やや負担に感じた」と回答した教員がいずれも8割を超えた。
現職教員が更新を忘れて失効してしまい、教壇に立てなくなる事態も各地で起きている。授業にも多大な影響を及ぼす問題だ。
埼玉県教育委員会は今年6月、県立高校の教員でこうした「うっかり失効」が1件あったことを公表した。4年前に同じ問題が起きた後、各教員に毎年、免許の期限を文書で伝えてきたが、再発を防げなかった。県教委の担当者は「今回は本人が期限を勘違いしていた。やれることはやってきたが、100%防止することはできない」と話す。
文科省によると、昨年3月末が有効期限だった教員約16万人のうち、いったんは免許が失効し、同6月までに再取得している教員が24人いた。すぐに取り直していることから、「うっかり失効」の可能性が高い。
一方、免許更新講習を担ってきた大学側からは制度廃止に戸惑いの声が漏れる。
「我々のこれまでの努力を無視するもので納得がいかない」。東京学芸大の国分充学長は憤りを隠さない。「コロナ禍」以前は年間で延べ1万人近い教員の講習を受け持っていた。受講者の多くが大卒の現職教員であることから、原則、大学院を担当する教員が講師を務め、高度な内容を学ぶ機会を提供してきた自負があるという。さらに「免許更新講習の講師を務めることが、学校現場で何が求められているかを真剣に考え、意識改革を図るきっかけとなっていた」と大学側にも意義のある制度だったと強調する。
その上で、「10年に1度の講習を廃止することが、教員の抜本的な負担軽減になるのか疑問だ。本当の『働き方改革』を進めるには、通常業務の削減こそが求められている」と話した。
内閣改造見据え断行 自民内から反対も
教員免許更新制は、自民党政権が紆余曲折(うよきょくせつ)の末に導入を決めた政策だった。
導入論が本格的に動き出したのは、…
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