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あの感動の調べをもう一度。注目公演の模様を鑑賞の達人がライブ感たっぷりに再現します。

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フェスタサマーミューザ2021~②京都市交響楽団

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「フェスタサマーミューザKAWASAKI」へ待望の初出演を果たした広上率いる京都市交響楽団 (C)青柳聡
「フェスタサマーミューザKAWASAKI」へ待望の初出演を果たした広上率いる京都市交響楽団 (C)青柳聡

 7月22日から8月9日までの間、ミューザ川崎シンフォニーホールをメイン会場に開催された「フェスタサマーミューザKAWASAKI2021」の公演リポート第2弾は広上淳一指揮、京都市交響楽団の公演(8月4日)。取材・執筆は音楽ライターの柴田克彦氏です。

 ミューザ川崎の夏の風物詩「フェスタサマーミューザKAWASAKI」は、首都圏のプロ・オーケストラの日替わり出演が大きな柱だが、2017年からは地方都市のオーケストラも順次参加している。そこで今年は広上淳一指揮/京都市交響楽団の出演が実現した。しかるに本公演は当音楽祭の中でも注目度が高い。何しろ広上&京響の充実ぶりはつとに名高く、演奏水準は日本屈指と称されている。しかも2008年からシェフ(現在は常任指揮者兼芸術顧問)を務めて楽団の飛躍に寄与した広上が2022年3月に退任するというから、今回は集大成的な名演が期待される。

 演目は、ブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」という王道ドイツもの。結論から言うと、期待は大いに満たされた。何を置いてもまずサウンドが素晴らしい。重層的かつマイルドで、角のとれたアタックや豊潤な質感はヨーロッパの名門オーケストラを彷彿(ほうふつ)させる。バランスも絶妙だし、全パートにムラがなく、中でも弦楽器群の絹(あるいは綿)のような響きが、独特の魅力を醸し出す。

 ブラームスの二重協奏曲では、ヴァイオリンの黒川侑とチェロの佐藤晴真が、息の合ったみずみずしいソロを披露した。特に佐藤の雄弁にして気品漂うチェロが秀逸。この曲のライブは、ヴァイオリンとチェロとオーケストラがバラバラな隙間(すきま)風吹く演奏になりがちだが、今回は三者の受け渡しがスムーズだし、フレージングがそろっていてまとまりもいい。音楽自体もほどよく重厚かつ優美で、楽曲の妙味を存分に満喫することができた。

ブラームスの二重協奏曲でソリストを務めた黒川侑(ヴァイオリン)と佐藤晴真(チェロ) (C)青柳聡
ブラームスの二重協奏曲でソリストを務めた黒川侑(ヴァイオリン)と佐藤晴真(チェロ) (C)青柳聡

 後半のベートーヴェンは、広上がプレトークで「温故知新。古き良き時代のゆっくりと楽しむ『英雄』にしたい」と語り、モントゥーやアンセルメ等の名を挙げていた通りの、しなやかでふくよかな表現。それでいて力強さやスケール感や推進力にもこと欠かない。ピリオド勢の台頭以来主流の快速テンポ&エッジの効いた表現ではむろんなく、フルトヴェングラーやクレンペラー系の大演奏でもない、若干ゆったりしたテンポによる表情豊かで温かな「英雄」だが、これはこれで説得力十分だ。第3楽章の後にいったん間を置いて第4楽章に移った(楽譜に書かれていないアタッカで突入する通例的演奏を聴くたびに、両楽章は別種の音楽ではないのか?と思ってしまう)点にも好感を持ったし、個人的には実に好ましい「英雄」だった。広上も他のオケの客演時とは違った阿吽(あうん)のやりとりがたのしそう。繰り返しの際に随所でニュアンスを変えるなど、もはや自在の境地といった感がある。オーケストラも前記の特長をフルに発揮しながらそれに応え、中でも第3楽章のトリオをはじめ、(日本のオケの弱点でもある)ホルンの上手さが光っている。

 コンビ14年の緊密さを如実に示した本公演は、フェスタサマーミューザKAWASAKI2021の中でも1、2を争う名コンサートだった。

公演データ

【フェスタサマーミューザKAWASAKI 2021】

ミューザ川崎シンフォニーホール

◆京都市交響楽団

8月4日(水)19:00

指揮:広上淳一

ヴァイオリン:黒川 侑

チェロ:佐藤晴真

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調Op.102

ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調Op.55「英雄」

筆者プロフィル

 柴田克彦(しばた・かつひこ) 音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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