「包茎は恥」呪縛から見えるジェンダー 連鎖する生きづらさ

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「日本の包茎 男の体の200年史」を書いた渋谷知美・東京経済大准教授=本人提供
「日本の包茎 男の体の200年史」を書いた渋谷知美・東京経済大准教授=本人提供

 なぜ日本の男性は、清潔にしていれば問題がない仮性包茎を恥ずかしいと考えるのか。東京経済大の渋谷知美准教授(48)=教育社会学・ジェンダー論=は、この疑問をもとに12年かけて国内で包茎がどのように語られてきたのかを研究し、2021年2月に「日本の包茎 男の体の200年史」(筑摩選書)にまとめた。男性の性の歴史を研究するフェミニストの社会学者が、包茎の歴史を調べて見えてきたものとはなんだったのだろうか。【佐野格/デジタル報道センター】

※記事では性的表現を取り上げています。閲覧にご注意ください。

「男性の性」研究、原点は中学時代

 渋谷さんがこの研究を始めた原体験は、中学時代にある。

 通学時の電車で、父親と同年代のスーツを着た大人が、きわどいグラビア写真や性的な記事の載った雑誌やスポーツ新聞を読んでいた。世の中に「いやらしい雑誌」があることは知っていたが、それはおかしな人が隠れて読むものだと思っていた。家ではよき夫や父親、立派な社会人と思われるような人たちが、出勤途中に堂々と読んでいる、それを社会は普通のこととして許容している。このことが、男性の性について興味を持ち始めるきっかけだった。

 大学院に進むころ、「処女」の価値観の歴史的な変遷を調べた川村邦光・大阪大名誉教授の研究に刺激を受けた。「ならば私は童貞を研究しようと思いました。どんな男性も初めは必ず童貞。男性の普遍的な何かが見えてくるはず」と本格的に研究の道へ進んだ。03年に「日本の童貞」(文春新書)を出版。戦前と戦後における童貞に対する価値観の違いや、男女における貞操観の差、童貞を恥ずかしいものとみなす言説の歴史などを明らかにした。

 この研究で大量の青年誌や雑誌などを調べたことで、童貞と同じく、包茎も恥と見なされていることに気づいた。「仮性包茎が多数派だとはなんとなく知っていましたし、清潔にしていれば問題はないのに、なぜこんなにばかにされているのか疑問でした」。08年に小さな研究会で発表したところ、男性の関心が高いことがわかった。本格的な調査を開始し、約2000件の文献にあたり、歴史をひもといていった。

「なんとなく」受け継がれた恥ずかしさ

 「日本の包茎」の冒頭に出てくるのが、男性が性病にかかっていないかを調べるため、戦前から第二次世界大戦後まで軍隊や学校などで行われた身体検査(通称M検)のデータだ。

 例えば、広島の歩兵485人を対象にしたデータを基に解剖学者が書いた1899年の論文では、真性包茎が4人▽仮性包茎に相当する人が137人▽亀頭が露出している人が344人――だった。しかし解剖学者はこれを「真の統計」とは見なさなかった。344人のうち317人は、包皮をたくし上げて露出するように見せかけていた。「恥と思っているから」だろうと解剖学者は推察している。

 包茎を恥とみなす文化は、…

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