「だいじょうぶ」キャンペーン

「だいじょうぶ」キャンペーン 都市防災に意識を 東大大学院工学系研究科・池内幸司教授

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池内幸司・東京大大学院工学系研究科教授=松田嘉徳撮影 拡大
池内幸司・東京大大学院工学系研究科教授=松田嘉徳撮影

 9月1日は防災の日。近年、都市部での自然災害に注目が集まっている。記憶に新しい2019年10月の台風19号は、現実となりつつある都市災害の実態を鮮明に印象づけた。水害や土砂災害の危機は身近に存在する。私たちが今、考えることは何か。住民、行政、企業がともにすべきことは何か。長く政府で防災対策の第一線に立った池内幸司・東京大大学院工学系研究科教授に聞いた。【三枝泰一】

 --現状をどう見るか。

 「地方に比べれば危険は少ない」というのは単なる思い込みだ。首都圏を例にとれば、丘陵地に住宅域が展開する横浜・川崎エリア、東京都心港区の古くからの住宅街の一部は崖と隣り合わせだし、東京東部には海抜ゼロメートル地帯が広がる。東京湾・伊勢湾・大阪湾の3湾岸エリアのゼロメートル地帯に住む人口は約310万人にのぼる。19年の台風19号では、その危険性が可視化された。荒川も多摩川も大規模氾濫寸前だった。

 --地球温暖化の影響も強調されている。

 8月9日に国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した第6次評価報告書では、産業革命前に比べて、21~40年に世界の平均気温は1・5度上昇し、10年に1度の豪雨の発生頻度は1・5倍になると予測、2度上昇した場合は1・7倍になる。従来の防災インフラに与えるインパクトを考えておく必要がある。

 --住民に求められる防災意識は。

 普段から自分が住んでいるところにあるリスクを把握し、どんな行動をとればよいかを家族で話し合っておくことだ。

(上)台風19号の降雨で増水した多摩川(2019年10月13日撮影)(下)通常水位の状態(2019年11月5日撮影)。手前は東京都大田区、奥は川崎市中原区で、武蔵小杉駅周辺のタワーマンション群が見える 拡大
(上)台風19号の降雨で増水した多摩川(2019年10月13日撮影)(下)通常水位の状態(2019年11月5日撮影)。手前は東京都大田区、奥は川崎市中原区で、武蔵小杉駅周辺のタワーマンション群が見える

 台風19号では、川崎市のマンション1階が水没し、住民が亡くなった。現場は多摩川と支川の合流点に近い住宅街で、多摩川本川の水位が上昇した影響で支川の水位も上昇し、支川から越水した。生活圏の地形が認識されていれば防がれたケースかもしれない。

 同市の武蔵小杉駅周辺では多摩川の樋管(ひかん)から逆流した水がタワーマンションの地下に流入。電気設備を不能にしライフラインを寸断した。「電気設備は高い所におけ」という教訓にしたい。

 ハザードマップを確認するだけでは理解は深まらない。年に1回でも、実際に指定緊急避難場所まで歩いてみることだ。避難経路の途中に土砂災害危険箇所が存在することもある。複数の避難経路を把握しておきたい。

 --台風19号では、荒川流域の都内5区で、区民を他区や他県に一斉に移動させる「広域避難」の発令が検討された。

 最終的に、あの時は発令されなかった。大規模災害が予想される際の、避難の「王道」だとは思うが、区民をすべて避難させるには数日必要だし、交通機関の確保の問題もある。

 一方、「垂直避難」の考え方がある。近くの頑丈な建物などの高い所に逃げることで、例えばエリア内のマンションやショッピングセンター、事業所などと区が事前に協定を結び、避難者を受け入れてもらう。現実的なのはこちらだろう。

 --不動産購入の際に心がけたいことは。

 購入予定地のハザードマップの確認は不可欠だ。まず国土交通省のハザードマップポータルサイトから「重ねるハザードマップ」にアクセスしよう。洪水・高潮・津波をクリックするとその範囲や浸水深が示される。土砂災害をクリックすれば警戒区域を簡単に把握できる。

 さらに同サイトの「わがまちハザードマップ」にアクセスすれば、中小河川の浸水想定区域のほか、市町村が公表しているハザードマップをまとめて閲覧できる。

 昨年8月、宅地建物取引業法施行規則が改正され、不動産取引時に水害ハザードマップを提示し、対象物件のおおむねの位置を示すことが業者に義務づけられた。購入する側にとって、リスク回避の効果は大きいだろう。

 --行政に求められることは何か。

 庁舎の電気・通信機器が使用不能になったり、首長や職員の参集がままならず、自治体の防災機能が十分に果たせなくなったケースが過去、見られた。ここで必須なのは「業務継続計画(BCP)」の策定だ。

 これは、災害時に「ヒト」「モノ」「情報」が制約を受けた場合でも、一定の業務を的確に行えるように備えておく計画のことだ。首長不在時の代行順位や職員の参集体制、本庁舎被災時の代替庁舎の特定、多様な通信手段の確保、重要な行政データのバックアップなどが含まれる。

 特に強調したいのは、業務のトリアージだ。災害時には多くの問い合わせが殺到し、その対応に追われて重要な情報を見逃したり、避難指示の発令が遅れて被害を大きくしてしまう事例がみられた。優先業務の明確化と、そうでない業務は「後回しにする」くらいの基準を事前に決めておくことだ。

 平常時の業務を災害対応業務に一気に切り替える明確な基準も必要だ。

 --都市部には多くの企業も立地している。

 内閣府の調査では大企業の約7割、中堅企業の3割強がBCPを策定しているが、地震だけを想定しているものが多い。水害では必要とされる対応が異なる。地震の場合は非常電源設備の稼働で建物の機能が維持される可能性があるが、水害では電源設備自体が水没して機能喪失に陥ることが多い。工場内への浸水が契機となって、施設内の物資と水が化学反応を起こして爆発するような2次災害も発生している。

 瞬時に襲う地震と違って、水害の場合は発生までリードタイムがある。その間に重要機器や物資を安全な場所に移動させる手立てを講じることが、BCP策定のカギになる。


荒川・利根川、過去に決壊

キャサリン台風で浸水した東京都足立区梅田=1947年9月16日 拡大
キャサリン台風で浸水した東京都足立区梅田=1947年9月16日

 過去、首都圏が大規模水害に見舞われた事例には1947年9月のキャサリン台風がある。利根川と荒川の堤防が決壊し、葛飾、江戸川、足立3区が浸水した。以降、政府は利根川の河川改修改訂計画を決定。利根川上流に大規模ダム群を建設し、洪水調整を行っている。

 2019年の台風19号では、多摩川の田園調布で氾濫危険水位を超過。荒川でも隅田川との分岐点である岩淵で、同水位まで残り53センチに迫った。

 荒川下流部の右岸が決壊した場合に想定される最大被害は、浸水区域内人口126万人、浸水戸数61万、死者2300人、孤立者数54万人。東証1部上場大手企業のうち約4割の本社が浸水する。

 消防庁の調査によると、災害対策本部が設置される庁舎が、洪水浸水想定区域内にある市町村が28%ある。役所の機能を維持するため、葛飾区役所や計画中の江戸川区役所新庁舎では、浸水が予想される1階を高床式の構造とし、主な設備を2階以上に配置している。


魅力とリスク併存 港区

旧来の住宅街と土砂災害警戒区域に指定された傾斜地(奥)が隣接する=東京都港区六本木で、三枝泰一撮影 拡大
旧来の住宅街と土砂災害警戒区域に指定された傾斜地(奥)が隣接する=東京都港区六本木で、三枝泰一撮影

 武蔵野台地の末端に位置する港区。東京23区内で最も起伏に富んだ地形を持ち、急な斜面や80を超す坂道が点在する。高度に都市化されたイメージが強い同区だが、一方で、210カ所の土砂災害警戒区域と、より危険度の高い142カ所の同特別警戒区域を抱えるエリアでもある。谷筋には旧来の住宅が軒を並べ、崖の下の道路を通勤する人たちが行き交う。

 同区は19年の台風19号を受けて、崖や擁壁の所有者に改修の必要性などを呼びかける「港区がけ・擁壁安全ハンドブック」を作成、該当する区域に戸別配布している。また専門家からなる「がけ・擁壁改修工事アドバイザー」を現地に派遣。新設や築造替えに向けた技術的課題などを助言するほか、実際に工事を行う場合は費用の一部助成もしている。

 同区のある住民は「高台にあった江戸の大名屋敷や寺社の風情が残り、これが港区の魅力だが、同時に災害の危険性も否めない。問題意識をみんなで共有したい」と話す。


公募型事業誘致団体を募集

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 「だいじょうぶ」キャンペーン実行委員会(事務局・毎日新聞社)は防犯、防災のポイントを学ぶ公募型事業(イベント)の誘致を希望する自治体、小学校を募集しています。ホームページから申し込めます。

 キャンペーンは「防犯」「防災」「交通安全」を柱に掲げて2007年に始まりました。イベントで実施しているプログラムは、小宮信夫立正大学教授の「地域安全マップ教室」▽「振り込め詐欺防止シミュレーション」▽NPO法人プラス・アーツの「体験型防災プログラム」――などです。

 応募についての問い合わせは同実行委事務局(03・3212・0850=平日午前10時~午後5時)。ホームページは「だいじょうぶ」キャンペーンと入力しても検索できます。


 「だいじょうぶ」キャンペーンホームページ(http://daijyoubu-campaign.com/)または「だいじょうぶ」キャンペーンで検索


主催

 「だいじょうぶ」キャンペーン実行委員会

 (野田健会長=元警視総監、元内閣危機管理監、全日本交通安全協会理事長/事務局 毎日新聞社)

共催

 全国防犯協会連合会、全日本交通安全協会、日本消防協会、全国防災協会、日本河川協会、日本道路協会、都市計画協会、全国警備業協会、日本防犯設備協会、ラジオ福島、毎日新聞社

後援

 内閣府、警察庁、文部科学省、国土交通省、消防庁、海上保安庁、東京都、NHK

協賛

 セコム

 東京海上日動

 トヨタ自動車

協力

 地域安全マップ協会

 プラス・アーツ

 情報セキュリティ研究所


 ■人物略歴

池内幸司(いけうち・こうじ)氏

 旧建設省技官、内閣府(防災担当)参事官、国土交通省水管理・国土保全局長、技監などを経て現職。社会基盤学専攻。

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