「死にたい」人たちを救ってきた作家の9年 透ける政府の無責任

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「電話番号を公開しているけれど苦情の電話とかはないですね」と語る坂口恭平さん=熊本市中央区新町で2021年4月22日午後3時26分、佐野格撮影
「電話番号を公開しているけれど苦情の電話とかはないですね」と語る坂口恭平さん=熊本市中央区新町で2021年4月22日午後3時26分、佐野格撮影

 それにしても、生きづらい世の中になった。家族の間、学校や勤務先で生じた問題に悩む一方、新型コロナウイルスの感染拡大で社会からの孤立感も深まり、八方塞がりに……。自殺者が昨年増加に転じたのは、そんな人が増えたからではないか。そして今年も夏休みが終わり、憂鬱な子どもが不安定になる9月がやってきた。自身の携帯電話番号(090・8106・4666)を公開し、自殺志願者の相談を受けてきた作家の坂口恭平さん(43)は何を思うのか。【佐野格/デジタル報道センター】

1日100件の相談電話

 「同居している親には何をしてあげられるの? 何でもいいから」。記者が今春、柔らかい光が差し込む熊本市のアトリエで取材した際、坂口さんは合間に「うつ病の絵描き」という女性とスマートフォンで話し込んだ。「時間がある時に髪の毛を切ってあげられます」と答える女性に、坂口さんは「じゃあ2カ月に1度、切ってあげようか」と呼びかけた。

 震えていた女性の声が、徐々に落ち着きを取り戻していく。坂口さんは、女性の作品の画像を見て「すごい絵だから、俺が買うよ。とにかく生き延びて、描いたら連絡して。普通の人と同じようにやらなくていいから」と励ました。「本当に? 坂口さん、ありがとう」。10分弱の相談を終えた女性は、坂口さんにそう伝えて電話を切った。

 ほどなくして、別の女性とも電話した坂口さん。自殺してまで親との関係を切りたいらしい女性に、「死ぬことと関係があるのかな」と率直に問い、さらにこう諭した。「君は死なないと思いますよ。電話の着信を拒否して、親と連絡を取るのをやめた方がいいです」

 午前4時に起床し、9時の朝食までに原稿10枚を執筆。午後はアトリエで絵を描き、夕方は畑に出る。午後9時に就寝するまで相談は続く。「相手を絶望させないために、…

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