新型コロナウイルスの感染が広がる中、「防災の日」を迎えた。
懸念されるのは、自然災害と感染症が同時に猛威を振るう複合災害だ。
そうした事態を防ぐには、避難の選択肢を広げる必要がある。国は、自治体が開設する避難所以外にも住民がそれぞれ避難先を確保する「分散避難」を促している。
総務省消防庁によると、この夏に日本列島を襲った豪雨では、緊急安全確保や避難指示の対象が一時、550万人超に上った。
避難所へ一度に大勢の住民が押し寄せれば、密集が避けられない。分散避難は感染リスクを抑える有効な手立てとなる。
個々の避難先としてまず考えられるのは親戚宅や知人宅だ。自宅周辺の安全が確認できていれば、在宅避難も選択肢となる。
ただ、誰もがそうした場所を確保できるとは限らない。周辺に土砂災害や浸水のリスクがあるにもかかわらず、頼れる避難先がないため、やむを得ず自宅にとどまる人も少なくない。
分散避難を推進するため、妊婦や障害者ら災害弱者を対象に、ホテルや旅館へ避難した際の宿泊費の一部を助成する制度を設ける自治体が増えている。
住民の宿泊の手配を代行してもらう協定を、大手旅行代理店と結んだケースもある。
そうした取り組みを一層広げていく必要がある。
避難先が分散すると、住民の状況を把握しづらくなり、医療や物資の支援を届けられなくなる心配も出てくる。少なくとも災害弱者については、避難先を含めた一人一人の行動計画を自治体が把握しておくことが不可欠だ。
近い将来の発生が懸念される南海トラフ巨大地震では、避難者が最大約950万人に上ると想定されている。
国のガイドラインは、知人宅などの避難先を各自で確保することを基本とし、それが難しい住民に対して自治体が避難所を提供するよう定めている。
避難の選択肢を広げることは、以前からの課題だった。コロナ禍でその重要性が再認識された。
気象災害の頻発や大地震に備え、コロナ後にも生かせる避難の体制を整えていきたい。