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沼野充義・評 『ナターシャの踊り ロシア文化史 上・下』=オーランドー・ファイジズ著…

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『ナターシャの踊り ロシア文化史』(上巻)
『ナターシャの踊り ロシア文化史』(上巻)

 ◆『ナターシャの踊り ロシア文化史 上・下』=オーランドー・ファイジズ著、鳥山祐介・巽由樹子・中野幸男訳

 (松籟社・2860円)

千ページ 近代ロシアの一大文化絵巻

 二世紀半にわたる、近代ロシアの文化の歴史を魅力的に語った本である。厳密に時系列にそって重要な項目を網羅して記述した編年体の歴史ではなく、テーマ別にロシアの国民的アイデンティティーと文化をめぐる興味深い事実と挿話を組み合わせながら、様々な文学作品からの引用をふんだんに盛り込んで織りなした一大文化絵巻という印象を受ける。上下合わせて千ページ近い大著であるだけに、細部では不正確なところも散見されるが、これだけの大著を心躍らされる読み物として書き切った著者の構想力と才気には並外れたものがある。著者はイギリスを代表するロシア史研究者で、一般向けの啓蒙(けいもう)書を次々に書き、マスコミでもロシア史・文化全般の解説者として活躍する「スター学者」だ。

 表題の「ナターシャの踊り」とは何だろうか。序章で詳しく紹介されているのだが、トルストイの名作『戦争と平和』の一場面である。伯爵令嬢のナターシャは、変人の「おじさん」の住む質素な丸太小屋を訪ねたとき、その場の雰囲気に突き動かされるように、いきなり民衆的な踊りを見事に披露し、居合わせた人たちを感動させる。貴族のお嬢さまが知っている踊りといえば、上流階級の舞踏会で踊られるフランス式の社交ダンスだけのは…

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