アフガンで味わった心の痛み 牧師に転じた退役軍人の人生
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テロリストに乗っ取られた旅客機が米国の中枢部に次々と突入し、2977人が犠牲になった米同時多発テロから、まもなく20年を迎える。テロやその後の対テロ戦争を体験した人たちは「あの日」から何を思い生きてきたのか。
◇
黙々と子供たちの肉片をかき集め、飛び散ったからだの一部を拾って回った。砂ぼこりのなか、トラックの荷台に遺体を積み込み、駐屯地に帰ると両手を漂白剤で洗った。からだが鉛のように重かった。米海兵隊として「敵を殺す訓練」を受けてきた。得意でもあった。ただ、子供たちの遺体を片付けたトーマス・バークさんの心は、ばらばらに張り裂けていた。当時20歳だった。
友人たちを無残に失い
アフガニスタン南部ヘルマンド州ナワ。2010年1月のある日の昼下がりの出来事だった。犠牲になったのは駐屯地の近くの村に住む子供たち。村の外れで携行式ロケット弾の不発弾を見つけ、駐屯地に届けようと運んでいる途中で爆発した。調査のために駆けつけたバークさんが目にしたのが、弟のように可愛がっていた子供たち8人の変わり果てた姿だった。
米軍は当時、ナワからイスラム主義組織タリバンを追い出し、現地の住民らと良好な関係を築こうとしていた。約半年前にナワに派遣されていたバークさんは村の子供たちの人気者だった。赴任前に現地のパシュトゥン語を習っており、ひげも現地のアフガン人のように伸ばしていた。「バーク・ムハンマド」。親しみを込めてそう呼ばれた。
バークさんがパトロールしていると、村の子供たちは笑いながら付いてきた。歩を緩め、突然に走り出すと、歓声をあげて追いかけてくる。時には川で一緒に泳ぎ、広場でサッカーをして遊んだ。タリバンが仕掛けた即席爆破装置(IED)の場所を教えてくれることもあった。
「不発弾を米軍に届けてほめられたかったに違いない」。爆発事故の凄惨(せいさん)な光景は何度もバークさんの頭によみがえり、悩ませ続けた。事故から約2カ月後、バークさんは夜に泣きながら起きると駐屯地を抜け出した。近くの川辺にたどり着き、ライフルの銃口を口に突っ込んだ。「この苦しみに終わりはない。逃れるには死ぬしかない」
引き金に力を加えようとした時、朝日が昇り始め、川を黄金色に照らし出した。その美しさに目を奪われて、ちゅうちょしていると、心配して駐屯地から後をつけてきた友人の声が聞こえた。駆け寄ってきた友人にしがみつき泣きじゃくった。
帰国後に待っていた心の地獄
バークさんのアフガンでの任務は10年6月に終了した。ハワイの基地に戻ったが、体調は回復しなかった。高校を卒業するとすぐに海兵隊に入隊したバークさんは、アフガン従軍前にもイラクに約8カ月赴任し、親友をIEDで亡くしていた。二つの戦争はバークさんの心をむしばんでいた。
「私には休暇が必要だ」。米西部サンディエゴ行きの航空券を購入し、上官にかけ合った。上官はポケットから薬ケースを取り出して見せ「気持ちは分かる。私も苦しんでいる」と応じたが、休暇は認められなかった。バークさんは基地を飛び出し、西海岸を旅しながら大麻やコカインなどの薬物に溺れた。「自殺願望が消えなかった。ドラッグで現実逃避をして死なないようにしていたのかもしれない」と振り返る。
約1カ月後、基地にもどると「無許可外出」と「薬物乱用」をとがめられ、簡易軍事法廷にかけられた。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断を受けていたが、考慮はされなかった。薬物治療を受け「名誉除隊以外」という形で海兵隊を…
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