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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「できないこと?…

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 「できないこと? まだ見つけられていないな」。東京パラリンピックに出場したアーチェリーのスタッツマン選手(米国)の言葉に胸をつかれた。生まれつき両腕がなく、足で弓を操る。283メートル先の的を射抜いてギネス世界記録に認定された▲トルコのボヤジ選手も両腕を持たずに生まれた。水族館で「魚は腕がないのに泳げる」と気づいたのが水泳との出合いだ。活躍する女性アスリートとしてバービー人形のモデルにもなった。「できることを、その力を見せつけてやろう」▲後天的な障害を乗り越えた選手の言葉も力強い。自転車の杉浦佳子選手は50歳、日本勢最年長の金メダリストだ。「最年少記録は1回だけ。最年長記録は何度でも更新できる」と語った3日後に別種目で優勝し、自ら実証した▲ロードレース中の転倒事故で脳に障害を負った。失意の中、希望を提供したのも自転車だ。「失われたものを数えるな。残ったものを最大限に生かせ」。パラリンピックの父と称されるグトマン医師の言葉を生きる▲毎朝、新聞のスポーツ欄にくぎ付けになった13日間が終わる。挑戦し続ける人々の言葉に励まされ、「できない理由」ばかり探す日々を自省した▲東京での活躍は長い人生の一場面に過ぎない。両手足に義手義足を着けた車いすフェンシングの王者、イタリアのビオ選手は「(パラリンピアンは)既にこの舞台に来る前に何かに打ち勝ってきている」。戦い抜いた4400人と支えるすべての人に、心からの拍手を。

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