防衛予算の膨張が止まらない。来年度の概算要求は、過去最大規模の5兆4797億円となった。今年度の当初予算比で2・6%増加した。
米軍再編関連経費や主力戦闘機「F15」の改修費は、米国と交渉中であることを理由に金額を示さない「事項要求」となっている。年末の予算編成ではこれらも追加される。
防衛予算は、安倍晋三前政権時代から9年連続で増え続けている。来年度は最終的に、目安とされてきた国内総生産(GDP)の1%を上回る可能性もある。
安全保障環境の変化に応じて防衛力を整備するのは国の責務だ。だが、予算には制約がある。効果的な抑止力につながるよう、優先順位をつける必要がある。
概算要求の大きな柱は、急速な軍備拡張を続ける中国の海洋進出や、台湾情勢の緊迫化をにらんだ態勢の強化だ。
南西諸島の奄美大島、宮古島に続き、石垣島にもミサイル部隊を配置する。弾薬や燃料を迅速に運べるよう輸送船2隻を建造する。
島しょ部の防衛力を強化する必要性は理解できるが、周辺国との緊張を緩和する外交努力も一体で行われるべきである。
気がかりなのは、高額な装備品を複数年の分割払いで購入する「新規後年度負担」が過去最大になったことだ。最新鋭ステルス戦闘機や、イージス艦に搭載する迎撃ミサイルなどを調達する。
これらは、米政府と直接契約する有償軍事援助(FMS)で取得する。一般の商取引と異なり、価格や納期について米側の条件をのまなければならない。
計画を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代わりとなる艦艇の建造費は計上されなかった。運用方針などが定まっていないためだという。導入や運用にかかるコストを早急に開示すべきだ。
新型コロナウイルス対策で国の財政状況は一段と悪化している。高額な装備品を導入するのであれば、費用対効果の観点からも妥当性を吟味する必要がある。
防衛力整備には国民の理解が欠かせない。透明性のある説明や議論を欠いたまま、なし崩しで増額することは許されない。