崩落現場で息子を捜し続けた父 テロの歴史を風化させない誓い
- ツイート
- みんなのツイートを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷

テロリストに乗っ取られた旅客機が米国の中枢部に次々と突入し、2977人が犠牲になった米同時多発テロから20年を迎えた。テロやその後の対テロ戦争を体験した人たちは「あの日」から何を思い生きてきたのか。
命落とした消防士の長男思い出し
米南部フロリダ州に住むリー・イエルピさん(77)の一日は、長男の名前が刻まれたブレスレットを右手首に着けることから始まる。ニューヨーク市消防局の消防士だった長男のジョナサンさんは、同時多発テロ(9・11)で旅客機2機が激突した世界貿易センター(WTC)に救助活動のため出動し、命を落とした。「毎朝、彼のことを思い出します」。文字の塗料がはげたブレスレットをなでながら、イエルピさんは言った。
イエルピさんも同消防局の元消防士で、テロ当時はニューヨーク在住だった。すでに退職していたが、使命感からWTCでの救助活動に加わった。テロ直後から毎日、息子の遺体が見つかった後も現場に通い、その期間は9カ月に及んだ。
「あの日も、今日のような美しい天気でした」。8月上旬に自宅でインタビューに応じたイエルピさんは、窓からのぞく青空を見上げながら、20年前の記憶を手繰り寄せた。「そして、濃い霧に包まれたように一変しました」
テロの発生を知ったのは2001年9月11日朝、WTC北棟に最初の旅客機が突入した直後のことだ。ジョナサンさんから電話があり、テレビをつけるように言われた。「あの映像」を信じられない思いで見ながら、「(WTCに)行くのか?」と聞いた。「電話したよ」。ジョナサンさんは答えた。消防士用語で、通信指令係に現場への出動希望を伝えたという意味だ。「オーケー、気をつけて」。「オーケー」。それがジョナサンさんとの最後の会話になった。
間もなく、イエルピさんもWTCに向かった。「息子を心配したからではなく、街が大変な時に力になりたいと思ったのです。引退しても心は消防士のままでしたから」。だが、市消防局の許可を得て入った現場の状況は想像を絶した。南棟、北棟のツインタワーの崩落に伴うがれきが約10メートルの高さにまで積み上がっていた。「煙や粉じんで雲の中にいるかのように視界が悪く、何とも言えない嫌な臭いが充満していました」。ジョナサンさんの安否も分からなかった。
多くの変わり果てた遺体
…
この記事は有料記事です。
残り1594文字(全文2555文字)
時系列で見る
-
米国とイラン対立の最前線のイラク 軍事・政治面で変化の兆し
473日前深掘り -
増える同時多発テロ後世代 教師は「歴史」をどう教え、伝えるか
501日前 -
サハラ砂漠で苦悩する「警察官」フランス 過激派掃討行き詰まり
502日前深掘り -
過熱したイスラム恐怖症 消えた「グラウンド・ゼロ・モスク」構想
505日前 -
崩落現場で息子を捜し続けた父 テロの歴史を風化させない誓い
506日前 -
アフガンで味わった心の痛み 牧師に転じた退役軍人の人生
511日前動画あり -
女性の権利、言論の自由は…時計の針逆戻り懸念 漂う徒労感/6
513日前深掘り -
米、軍撤収でも遠隔対応に自信 情報収集力低下懸念も/5
514日前深掘り -
タリバン復権の衝撃 国際空港、見えぬ再開 米軍撤収、管制システム停止 退避希望者、陸路目指す
515日前 -
繰り返された誤爆、民間人の犠牲5万人 今も抱く米への怒り/4
515日前深掘り -
タリバン復権の衝撃 バイデン氏、早期撤収固執 拙速批判拡大、政権運営に陰り
516日前 -
育たなかった国民意識 政府軍の士気低く/3
516日前深掘り -
タリバン復権の衝撃 「麻薬ゼロ」実現に疑問符 アフガン支援停止、資金難必至
517日前 -
リーダー人材枯渇 課題となった民族バランス/2
517日前 -
頓挫したアフガン民主化 火種となった北部同盟のカブール制圧/1
518日前 -
9・11 目の前で同僚が死んだ 奇跡の救出を語り続ける元警官
518日前動画あり -
タリバン復権の衝撃 過激派の拠点化懸念 IS、混乱突き勢力伸長
519日前 -
タリバン復権の衝撃 難民危機再来を欧州懸念 排他主義刺激、右派政党台頭……受け入れ消極的
520日前 -
タリバン復権の衝撃 欧州、米軍撤収非難 独自行動は困難、苦渋の追随
521日前