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この国はどこへ これだけは言いたい 決められない日本、五輪で露呈 社会学者・大澤真幸さん・62歳

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=前田梨里子撮影
=前田梨里子撮影

 日本の大人たちは自分では何も決められない。責任を取りたくないから、人に言われてやったふりをする――。この夏、日本政府や東京都など行政の長たちは、そんな振る舞いを若い世代、子どもたちに見られた。日本人の自立性のなさがもろに出てしまったと社会学者の大澤真幸さん(62)は言う。

 「新型コロナウイルス対策も後手後手に回り、国は思い切ったことができず、ちまちました対応しかできていませんよね。それよりも、政府の態度がはっきり表れたのが東京五輪・パラリンピックでした。開催前、国民の賛否は割れましたが、結局やることになった。でもその過程を見ると、政府が自らの価値観で選択したという感じが全くないんです」

 東京オリンピックを最初にやろうと言い出したのは石原慎太郎元都知事だが、大澤さんは、彼のベストセラー作品「『NO』と言える日本―-新日米関係の方策」(1989年、盛田昭夫ソニー元会長との共著)を思い出したという。「米国の圧力にNOと言えない日本人を嘆いた石原さんが日本を目立たせたいと思って呼び込んだ五輪を、やらなくてもいい状況になったのに最後まで自分たちで決められなかった。つまり『NOと言えない日本人』の姿をこれほどはっきりと見せたことはかつてなかった。実際、大方の日本人の感覚からしても、積極的にやったという気持ちはないし、言われて、NOと言えず渋々やった気分だと思うんですね」

 それでも競技は競技で楽しめた。「その通りなんです。崇高なもののために人生を犠牲にして闘っている人を称賛したくなりますよね。誰かが体操でメダルを取ったり、卓球の混合ダブルスで優勝したりすると、みんな、勇気が出ましたと言ったりする。でも閉幕して日常に戻ったとき、五輪の記憶を繰り返し反すうして勇気を得るというふうにならないのはなぜなのか」と投げかける。そして、こう続けた。「やらなくてもいい状況なのにやったのは、選手、英雄をたたえるためではなく、イベントとして大きな富をもたらすからです。IOC(国際オリンピック委員会)もアメリカのテレビ局など世界のメディアももうかるからやっている。だからこそ日本は開催しないことで社会の価値観や道徳を世界に示せるチャンスだったのに、特段のスローガンも示せないまま、なし崩し的に開いた。肝心なときに、きちんとできない国だから、若い人はこの国にいてもろくなことにならないと思っている」

 「若い人」とは意識調査で上がる声のことだ。日本財団がコロナ前の2019年秋、米国、ドイツ、中国、インドなど9カ国で17~19歳の各1000人に聞いたところ、日本だけ残念な結果が出たという。自分の国の将来について、「良くなる」「悪くなる」「変わらない」「どうなるか分からない」の4択から選んでもらったところ、「良くなる」を選んだ日本の若者はわずか9・6%で最下位だった。

 「豊かな国は、良くなる、悪くなるがほぼ同数か若干悪くなるの方が多い傾向にあります。米国は楽天的な人が多いのか30%が良くなる、30%が悪くなると答えています。新興国の場合、56~76%が良くなると答え、12%未満が悪くなると言っています。そんな9カ国中の例外が中国と日本なんです。中国では96%が良くなると思っていて、その逆が日本で、良くなるという人が10%未満で、悪くなるという人が38%もいる。将来この社会は良くならないと思っていたら、やる気も出ませんよね」

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