回顧展

回顧展「杉浦非水 時代をひらくデザイン」 近代日本映した職業人 たばこと塩の博物館であす開幕

  • ブックマーク
  • メール
  • 印刷
「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」1927年 愛媛県美術館蔵 拡大
「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」1927年 愛媛県美術館蔵

 モダンデザインの先駆者として活躍した杉浦非水(ひすい)(1876~1965年)の生涯をたどる回顧展「杉浦非水 時代をひらくデザイン」が11日からたばこと塩の博物館(東京都墨田区)で始まる。企業の広告や書籍の装丁など幅広く活躍し、日本の商業デザイン界をリードした非水の魅力に迫る。同館の鎮目良文・学芸部長が本展の見どころを解説する。

広告・書籍・商品、幅広く

 グラフィックデザイン、この言葉が日本で社会一般に知られるようになったのは、戦後、特に前回の東京オリンピック(1964年)でのデザイン活動であったと言われている。しかし、戦前の日本で、この分野を切り開き、グラフィックデザイナーの地位向上を目指した人物がいた。それが本展で紹介する杉浦非水である。

 非水は1876(明治9)年、松山市に生まれた。幼少期より絵を描くことが好きだった非水は、上京後、東京美術学校(現在の東京芸術大学)で日本画を学んだ。しかし、在学中にフランス帰りの洋画家・黒田清輝がもたらしたアールヌーボー様式の図案類に魅せられ、以後図案家(デザイナー)として歩み始める。

 1908(明治41)年からは、三越呉服店に勤め、約27年間にわたって、同店のポスターやPR誌の表紙絵、商品やノベルティーなどのデザインを担当し、三越のブランドイメージ創出に寄与した。それは「三越の非水か、非水の三越か」と言われるほどであった。

 しかし非水自身は、活動の幅を狭めることを避け、三越での身分は嘱託であり続け、並行して、他の企業のポスターや商品パッケージ、一般雑誌の表紙、書籍の装丁など、多分野で先進的なデザインを残した。

 1922(大正11)年、46歳にして念願だったヨーロッパ遊学を果たした非水は、約1年間、フランスなどを精力的に巡り、ポスター収集などに努めた。当時の最先端のデザイン様式に触れた非水は、帰国後、自らの作品で実践を試みる一方で、国内初の図案研究団体「七人社」の結成や、多摩帝国美術学校の創設などにも関わり、ポスターを中心とした広告理論の形成やデザインの価値の向上、普及啓発といった教育者としての役割も果たすようになった。

 本展では、非水の故郷・愛媛県美術館所蔵の非水コレクションを中心に、その作品を時代順に紹介する。非水の作品を概観するだけで、近代日本におけるグラフィックデザインの発展そのものを感じていただけるのではないだろうか。

 例えば、1914(大正3)年の「三越呉服店 春の新柄陳列会」は、明治期以来の美人画ポスターの流れの中にあるものとされているが、女性の顔を平面的に描くなど、写実的表現が主流だった他の美人画ポスターとは一線を画す。また着物の模様や調度品の描き方には、アールヌーボー的表現が見られるものの、すでに日本的模様への昇華も感じられる。

 1927(昭和2)年の「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」には、カッサンドルなどの迫力ある直線的な構図の影響が見られる。しかし、地下鉄駅に並ぶ人々を見てみると、奥の方は和装、手前は洋装で描くなど、西洋化していく日本の生活文化そのものを、一枚のポスターで表現している。

 非水は、西洋の最先端の表現方法を積極的に取り入れつつも、日本的デザインの創出にこだわっていた。その上で学ぶべきものとしたのが、日本の自然だった。彼は生涯を通じて、自然に畏敬(いけい)の念を持ち、その写生に真摯(しんし)に取り組んだ。日本の四季や自然環境の中で生きる動植物の形態や模様、多様な色彩から多くを学び、図案に生かしていた。

 また、非水が残した数多くの言葉からは、職業デザイナーとしての誇りを強く感じる。自由な自己表現ができる「純芸術」とは異なり、時代的・社会的制約、時には発注主からの無理難題を当然なものとして引き受け、その上で、自らの個性を生かした創作性にこだわった。たばこの「光」(1936年)をデザインした時には、すでに図案界の大家となっていたにもかかわらず、時局の変化や、発注主である大蔵省専売局の意向、意匠登録の審査のために三十数枚の図案を描いたとする記録もある。

 日本モダンデザインの象徴ともいうべき華やかな数々の作品の中にある、日本らしさ、そして社会と関わりを持ち続けた職業人としてのこだわりは、現代に生きる私たちにも多くの刺激を与えてくれる。


 <会期>

9月11日(土)~11月14日(日)=前期は10月10日まで、後期は同12日から。前期・後期で展示替えを行います。月曜休館(ただし9月20日は開館、9月21日は休館)

 <会場>

たばこと塩の博物館(東京都墨田区横川1の16の3、東京メトロ半蔵門線・都営浅草線・京成線・東武スカイツリーライン「押上(スカイツリー前)」駅下車徒歩12分)

 <入館料>

一般・大学生100円▽小・中・高校生50円

 <問い合わせ>同館(03・3622・8801)

 <主催>毎日新聞社、たばこと塩の博物館

 <協賛>ニューカラー写真印刷

 <特別協力>三越伊勢丹ホールディングス、東京国立近代美術館

 <企画協力>愛媛県美術館

 ※新型コロナウイルス感染症予防対策を万全に講じて開催いたします。感染拡大状況に応じて、開催内容を変更する場合があります。詳しくは同館ホームページ(https://www.tabashio.jp)をご確認ください。

拡大

自宅でもアートを

 同館ミュージアムショップのほか、通販サイト「まいにち書房」(https://www.mainichi.store/)でも本展の公式図録とオリジナルグッズの一部を販売する。送料別。図録はB5変型判。1冊2500円(税込み)。グッズはエコバッグやポーチなど。

あわせて読みたい

注目の特集