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NY豪雨で犠牲になった半地下の家族 低所得者を直撃する気候変動

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地下室への浸水で亡くなったアン・ラマさん(左)と息子のロブサン・ラマちゃん。妻のミングマ・シェルパさんも亡くなった=フェイスブックから
地下室への浸水で亡くなったアン・ラマさん(左)と息子のロブサン・ラマちゃん。妻のミングマ・シェルパさんも亡くなった=フェイスブックから

 熱帯低気圧になった後も米北東部で50人超の死者を出した大型ハリケーン「アイダ」。記録的な豪雨で広範囲に浸水被害が出た東部ニューヨーク(NY)市では、犠牲者のほとんどが家賃の安い地下室に暮らす低所得者だった。自宅で鉄砲水に襲われ、避難できなかったとみられている。歯止めがかからない気候変動は、格差の拡大に拍車をかける。その影響を真っ先に受けるのは貧しく弱い人たちだ。【隅俊之(ニューヨーク)、八田浩輔】

 「水が流れ込んできた」。NY市クイーンズ地区の3階建て住宅の地下室に暮らすネパール出身のミングマ・シェルパさん(48)が3階の大家に電話で助けを求めたのは1日午後9時半ごろだった。「すぐ逃げて」。大家は叫んだが、数分後に電話をかけ直すと応答はもうなかった。シェルパさんと夫のアン・ラマさん(50)、息子のロブサン・ラマちゃん(2)の3人は、濁流に沈んだ地下室で遺体で見つかった。

 NY市中心部では1日夜、過去最高の1時間80ミリの降雨量を観測していた。地下鉄の駅に雨水が流れ込み、クイーンズ地区ではあふれかえる雨水に車が浮いて次々と流された。外階段から下りるシェルパさん一家の地下室は、小さな窓はあるが鉄格子がはめ込まれている。出口は玄関だけで、雨水が天井まで流れ込めば逃げ場はない。坂の下にある住宅の地下室はあっという間に水に沈んだという。

 「(水に潜れたとしても)水圧でドアも開けられず、どうしようもなかった。悲劇だった」。2階に住むデボラ・トレスさん(38)は後片付けの段ボール箱を抱えて涙ぐんだ。

 NY市は、世界でも最も家賃が高い都市の一つだ。移民が集まるクイーンズ地区などでは、地下室を改造した部屋を借りる低所得者が少なくない。地下室の家賃は月数百ドル(数万円)程度で、数千ドルの高級アパートが建ち並ぶマンハッタン地区とは家賃事情が大きく異なる。

 米メディアによると、NY市で亡くなった13人は、被害が大きかったクイーンズ地区やブルックリン地区に集中。このうち11人が地下室の住人だった。地下室を住居として使うには、天井の高さを約2・3メートル以上にしたり、賃貸の許可を市から得たりすることが法律で定められている。だが、今回の犠牲者が出た地下室は6カ所のうち5カ所が違法だった。

 クイーンズ地区の別の地下室で亡くなった一家3人は、中国の武漢出身だった。付近住民やNYの中国語メディアによると、80代の父親は中国で建築技師をしていたが、十数年前に渡米。その後呼び寄せた60代の妻と30代の娘の3人で暮らしていた。一家が何で生計を立てていたのかは分からない。ただ、近所の女性は「近所で空き缶など廃品を拾って売っていた。収入が少なく、安い地下室に住んでいたようだ」と話した。

 6日に現場を訪れると、一家が暮らしていた10畳ほどの部屋は、家財道具や身の回り品が散乱したままだった。階段を9段下った奥にある部屋は、地面に掘られた横1メートルほどの長細い窓からわずかに光が入るだけだ。同じ地下の別の部屋に暮らしている宅配業の男性は「深夜に帰宅した時にはもう何もかもがなくなっていた」とうなだれた。妻の知人が今年7月、引っ越しを何度も説得したが、一家は引っ越ししなかったという。家賃が…

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