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岸政彦さん、個人の生活史追い続け 「一人の話から社会は描ける」

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荻上チキさんのラジオ番組「Session」に出演する社会学者の岸政彦さん。著書の執筆に加えて、近年はメディアへの登場も増えている=東京都港区のTBSラジオで2021年8月27日、長谷川直亮撮影
荻上チキさんのラジオ番組「Session」に出演する社会学者の岸政彦さん。著書の執筆に加えて、近年はメディアへの登場も増えている=東京都港区のTBSラジオで2021年8月27日、長谷川直亮撮影

 研究も文学も自分の目に映ったありのままの姿を著してきた。大阪に暮らす社会学者で立命館大大学院教授の岸政彦さん(54)は、市井の人の視点に合わせて社会を描く。その文章には意味付けや、派手な展開は存在しない。

 岸さんは8月27日、東京都内で複数の取材や打ち合わせをこなす合間に、TBSラジオの情報番組「荻上チキ・Session」にゲスト出演した。リスナーから出口の見えない新型コロナウイルス禍について意見が寄せられると、営業時間の短縮などによって打撃を受けている飲食店経営者の立場を憂えた。

 「飲食業の経営者になることは他人に雇われずに自分たちだけで生きていこうとする、ものすごく大きな選択肢だった。だから、自由に自立して生きるという一つの生き方自体が失われている感じがする。といって行動制限を緩めることもできない。ものすごく難しいなって、凡庸な結論しか出ないけど、社会学者としては本当に悲しい思いで見ています」

 そう語った後、感染拡大防止対策に伴う生活の変化を「行動制限というより人生制限」と表現した。実情を的確に捉えた言い換えに荻上さんら出演者は納得の声を上げ、ネット上でも共感の書き込みが相次いだ。

 生活する人々の等身大の姿を見て、強引に答えを出そうとはしない。しかも多くの人が気に留めないような情景や迷いを率直に記す。その独自の視点を寄せ集めたのが、2015年に刊行したエッセー集「断片的なものの社会学」(朝日出版社)だ。

 路上のギター弾きやシングルマザーのキャバクラ嬢、元ヤクザ――。彼らの話を聞き、見過ごしてしまいそうな日常のささいな出来事や、すぐに忘れがちな会話をすくい上げている。寛容さや多様性が失われていく現代社会を生きる私たちに、無意味に映る「断片」も世界を作り上げている大切な一部であることを気づかせてくれる。

 岸さんはマイノリティーの問題について知ってもらおうと、大阪・釜ケ崎に5人の女子学生を連れて行ったエピソードを紹介した。その際、路上で酔っ払いの男性からヤジを飛ばされ、…

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