東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域について、政府が避難指示の解除方針を決めた。希望する住民全員が2020年代に帰還できるようにする。
該当するエリアは福島県の7市町村にまたがる。「復興拠点」に指定されている元の市街地などを除き、帰還のめどが立っていなかった。地元首長らは、地域の再生に向けて「一歩前進」と受け止めている。
だが、課題も多い。
避難指示解除の前提となる除染は、24年度をめどに開始するというが、範囲は基本的に希望者の自宅周辺などが想定されている。それ以外の場所の扱いについては、引き続き検討するという。
除染されず、放射線量の高い場所が地域に残っていれば、帰還をためらう人もいるだろう。住民からは「区域全体を除染してほしい」との声が上がっている。
帰還困難区域の除染には国費が充てられる。政府が全域除染に消極的なのは、費用負担が重いからだ。除染には昨年度までに、全体で3兆円を超す資金が投じられている。
事故から10年以上がたち、住民の考え方や生活環境は一様でなくなっている。
国と自治体のアンケートに対し、「地元には戻らない」と答える人が増えてきている。避難先で新しい仕事に就いたり、子どもが進学したりして、生活の基盤が移ったためだ。
一方で、「まだ判断がついていない」という人も少なくない。地元に病院や商業施設が開設されるかどうかといった情報が十分に示されていないからだ。
政府は今後、個々の住民に帰還の意向を確認するという。どのような将来を望むのかを丹念に把握し、まちづくりの計画に反映させることが欠かせない。
政府は復興の基本方針で、「全域の避難指示を解除し、復興・再生に責任を持って取り組む」と明言している。
しかし、全域解除に向けた具体的な道筋が明示されないままでは、帰還するかどうか、住民に難しい判断を強いることになる。
住民の不安を拭うためには、政府が地域の将来像を早期に示す必要がある。