「まず自助」はコロナ禍最悪のメッセージ 政治は「公助」を
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菅義偉首相が自民党総裁選(29日投開票)に出馬せず、退陣する。1年前に目指すべき社会像として「自助、共助、公助、そして絆」「まずは自分でやってみる」と掲げたが、「自助優先」とも受け取られ、批判が上がった。「コロナ禍で困窮が広がった社会への最悪のメッセージだった」と評するのは、ホームレスの人の支援に長年携わってきたノンフィクションライターの北村年子さん(59)。首相退陣を前に、政治が自助を強調したことの影響を振り返ってもらった。【山下智恵/デジタル報道センター】
助けが必要な人の口を塞ぐ発信
――菅首相が昨年9月の就任記者会見などで「自助、共助、公助」と発言したことをどう受け止めましたか。
◆率直に言って、自己責任論が強化される、困っている人が「助けて」と言いづらくなると受け止めました。「まずは自分でやる」なんて誰でも分かっているのです。でも、つまずいたとき、転んだとき、多くの人は一人では起き上がれない。しかも、発言がなされたのは、新型コロナウイルスの感染拡大で、急速に人々の困窮が深まり、孤立を深めていた頃で、「困ったときは頼っていい」というメッセージが必要な時期でした。そんなときにリーダーがあえて「まずは自分でやりなさい」と、助けが必要な人の口を塞ぐ。最悪のメッセージだったと思います。
私が思う「自助」は、自立するためにも、応援してくれる人や居場所の存在、つまり「ホーム」があってこそ成立するものです。ホームレスとはそもそも人ではなく、状態を表す言葉で、家がないという経済的困窮に加えて、助けを求められる家族や友人といった人間関係をなくしている状態です。私はこれまで、性の悩みを話せない少女たちや、子どもをたたいてしまう悩みを抱えた母親たちなど、当事者同士による「自助グループ」を開催してきました。これはアルコール依存症患者の取り組みから始まったものです。当事者が集まり、悩みを語り合い、あるがままの自分を受け止めてもらうことで力を得る。つまり互いにエンパワーメント(力づけ)し合うことで、それぞれが回復の道筋へとつながっていきます。
自助の根幹にはこうした相互扶助、つまり共助があり、公助が整っていることを前提としています。そこは自己責任を問われる場所ではない。自助とは「自分でどうにかする」ことではなく、こうした支えを持つことのはずです。
自己責任論、福祉につながる障壁に
――自助を強調する弊害はどこに表れるのでしょうか。
◆菅首相は公助の責任者です。しかし、この間、子どもや女性、ホームレスの人々などの貧困に対し、率先して対策に取り組んできたでしょうか。
子育て世代の母親たちと話すと、コロナ禍で非正規雇用を中心に…
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