「部落差別、ネットで拡散」 地名掲載差し止め訴訟、27日判決

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同和地区地名リストのネット掲載差し止めを求めた訴訟で、判決を前に思いを語る原告の男性たち=長野県で2021年9月10日、遠山和宏撮影 拡大
同和地区地名リストのネット掲載差し止めを求めた訴訟で、判決を前に思いを語る原告の男性たち=長野県で2021年9月10日、遠山和宏撮影

 全国5360以上の同和地区の地名リストが5年前、インターネットのサイトに掲載された。根深い差別を受けてきた人々は「ネットで部落差別が拡散される」と憤り、掲載差し止めと賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。この訴訟の判決が27日、言い渡される。司法はどういった答えを出すのか。

努力水の泡、住民側危惧

 「こんなことはあり得ない」。長野県の男性(71)は2016年2月ごろ、地名リストがサイトに掲載されていると知り、言葉を失った。男性は同和地区で生まれ育った。リストには地区名が含まれていた。サイトには、全国の部落解放同盟の幹部らの名前や住所、電話番号の一覧も掲載されていた。

 1970年代、同和地区の地名が記された「部落地名総鑑」を多くの企業が購入し、採用の参考にしていたことが問題化した。男性はそれを思い出した。「インターネットで簡単に同和地区が調べられてしまったら……」。出自を理由にした結婚や就職差別は以前ほど聞かなくなったが、「過ちが繰り返されるかもしれない」と危機感が募った。

 同県の別の同和地区出身の男性(68)は「今も差別意識は根強くある」と言い切る。中学生の頃、同級生に「おまえたちは臭い」と言われたり、差別表現である4本指を出されたりしたことを今も鮮明に覚えている。こうしたあからさまな差別でなくとも、初めて出会った相手から、同和地区出身者かどうかを確かめるように、居住地を細かく聞かれることは今もしばしばある。同和地区の不動産価格は周辺と比べて低いままだ。

 2人は、部落解放同盟の地区幹部として、本籍欄のない履歴書や、第三者が戸籍を取得した場合に戸籍記載者にその事実を通知する制度の普及に取り組み、一部の企業や自治体に導入された。だが、ネットに流出した地名リストから、誰でも容易に全国の同和地区を知ることができれば、差別を解消したいと続けてきた努力が水の泡になってしまうとの恐れを抱く。

1970年代に回収された部落地名総鑑=部落解放同盟大阪府連提供(画像の一部を加工しています) 拡大
1970年代に回収された部落地名総鑑=部落解放同盟大阪府連提供(画像の一部を加工しています)

 川崎市の出版社は16年2月、地名リストを掲載した書籍を出版すると同社サイトに告知。時を同じくして、別の複数のサイトに地名リストが掲載された。部落解放同盟はすぐに、書籍の出版と地名リストのサイト掲載の差し止めを求める仮処分を申し立てた。裁判所は申し立てを全面的に認め、地名リストの削除を命じたが、一部のサイトには昨夏ごろまでリストが残った。

 部落解放同盟と全国の同和地区の住人ら200人余は16年4月、出版社の代表が地名リストをサイトに掲載したとして、掲載の差し止めなどを求める訴訟を東京地裁に起こした。「リストの公表でプライバシー権や名誉権、差別されない権利が侵害された」として、原告1人当たり110万円の損害賠償なども求めた。

 長野県の男性2人も原告に名を連ねた。2人は「判決が差し止めを認めても、同じ動きが続けばまた訴訟を起こさねばならない。最終的には、差別行為を罰則付きで禁止する法律の整備が不可欠だ。そのためにも、まずは判決が地名リストの掲載は差別であると明言してほしい」と願う。

出版社側、棄却求める

 一方、出版社代表側は、一部のサイトについて「運営・管理をしていない」と主張。さらに、書籍が出版できなくなったことを「地名リストは学術論文でも使われる。学問の自由の侵害だ」などと反論し、請求の棄却を求めるとともに、損害として計510万円の支払いを部落解放同盟側に求めた。

 法務省が20年6月に公表した部落差別の実態調査では、部落差別が不当な差別であることを「知っている」と回答した人は85・8%だった。一方で、交際相手や結婚相手が同和地区出身者であるか「気になる」と回答したのは18~29歳が8・3%だったのに対し、60代18・2%、70代17・7%、80代以上23・9%と、高齢世代ほど差別意識が残る傾向にある。

 原告側代理人の指宿昭一弁護士は「インターネットで容易に情報が拡散できる時代に、地名リストを載せることは、部落差別の拡大を助長する行為だ。デジタル社会と差別の被害拡大を司法がどう捉えるのか、判決は重要な意味を持つ」と指摘する。【遠山和宏】

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