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コロナ下の「共助」担う農家もピンチ 米価の下落に直面

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米価の行方について議論する農民連の藤原麻子事務局次長(左)と笹渡義夫副会長=東京都板橋区の農民連で2021年7月16日、東海林智撮影 拡大
米価の行方について議論する農民連の藤原麻子事務局次長(左)と笹渡義夫副会長=東京都板橋区の農民連で2021年7月16日、東海林智撮影

 新型コロナウイルス下で細々と続く「共助」がピンチを迎えている。困窮している人たちに食料を提供する農家が、米価の下落に直面しているためだ。自分自身の生活が苦しくなれば、他人に農産物を寄付することはままならなくなる。関係者は「公助」の充実こそ重要だと訴える。

 「朝採れのトマトを持ってきたよ」。東京・秋葉原で7月10、11の両日開かれた、女性を対象とした生活相談会(第二東京弁護士会など主催)。コロナ禍で仕事や住まいを失うなどして困窮している人たちのための相談会は、困窮者支援団体などが各地で繰り返し開いている。茨城県取手市の農業、椎名知哉子さんはトマトなど10キロ超の農産物を背負って会場に現れた。

 会場には、椎名さんも参加している農業者団体「農民運動全国連合会」(農民連)から4トントラックいっぱいの米や野菜、みそ、しょうゆが届いている。「フードバンク」から提供されたものも。いずれも訪れた人たちに配るためだ。椎名さんらボランティアスタッフたちは食料を次々と仕分け、並べていった。

生活相談会の会場には、訪れた人たちに配られる米や野菜、果物が大量に届いた=東京都台東区浅草橋5で2021年7月10日、東海林智撮影 拡大
生活相談会の会場には、訪れた人たちに配られる米や野菜、果物が大量に届いた=東京都台東区浅草橋5で2021年7月10日、東海林智撮影

 農民連の事務局次長、藤原麻子さん(51)も会場に駆けつけた一人だ。「『困難のあるところに農民あり』です。私たちは災害などの現場に食料を届けてきました」と語る。2008年末に開設された「年越し派遣村」でも、全国から大量の米や野菜を届け、仕事を失った派遣労働者らを「食」で支えた。昨年からは困窮者を対象とした相談会にも足を運んでいる。

 藤原さんには忘れられない場面がある。今年5月、東京都内で開かれた「ゴールデンウイーク大人食堂」。20代とみられる女性が米を受け取り「ありがとうございます」と涙ぐんだのだ。派遣労働者として働いてきたが、コロナ禍で仕事が大幅に減り、仕事がない日は食事を取らずにずっと寝続けているという。繰り返し頭を下げる女性に、コロナ禍の厳しい現実を思い知らされた。と同時に、手塩にかけた農作物が誰かの命を支えているとの実感を持つことができた。

 だが、コロナ禍は農家の足元をも脅かす。農林水産省の統計によると、国内の主食用米の需要量は20年6月までの1年間で、前年よりも21万トン減り714万トンとなった。21年6月までの1年間では、さらに10万トン減って704万トンに。また全国農業協同組合中央会(JA全中)は今年3月末、来年6月末には米の民間在庫量が253万トンに上ると試算した。

 需要が減り、在庫が増えれば価格は下がっていく。農民連の副会長、笹渡義夫さん(64)は「21年産の業務用米の価格は60キロあたり1万円を割り込んでいる。1万円を切れば種代や肥料代がまかなえなくなる」と声を落とす。農民連の試算では、米作りで時給1000円を実現するには、60キロあたり1万8000円は必要という。「時給なしで働いているようなもの」と藤原さんは自嘲気味に言う。

 いわゆる「巣ごもり需要」が米価を押し上げなかったのは、外食やインバウンド(訪日外国人)の需要減が響いたためとみられる。

 茨城から駆けつけた椎名さんは「米で生計を立てているからこそトマトを出す余裕もある。米価が下がり続けると私たちも暮らしが成り立たない」と苦しい胸の内をさらけ出す。「農作物で喜んでもらえるのは農家としてうれしいが、『公助』はどうした、と言いたくなる」

 農民連によると、アメリカ、フランスには食料を寄付した場合の税制優遇制度があり、アメリカにはさらに余剰生産物を政府が買い上げてフードバンクに提供する仕組みもあるという。一方で日本では、米余りの状況が生じているにもかかわらず、困窮して食べ物に困る人が続出している現状がある。

 農民連の笹渡さんは「公的な食料支援制度が必要だ」と「公助」の重要性を指摘する。そのうえで「政府は余剰米を買い入れて困窮者に配るなどの人道支援をすべきだ。そうすれば生産者は営農を続けられ、市民は飢えない」と提案する。【東海林智】

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