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緊急事態の全面解除 制限緩和の戦略を明確に

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 新型コロナウイルス対策で東京など19都道府県に発令されている緊急事態宣言が、今月末の期限で解除される。8県を対象としたまん延防止等重点措置も終わる。

 宣言も重点措置も出されていない状況は、4月以来、約半年ぶりとなる。2回のワクチン接種を終えた人は全国民の6割近くに上る。その効果を踏まえ、政府の感染対策が新たな段階に入る。

 新規感染者数は減少傾向が続き、病床使用率は宣言解除の目安となる50%を下回っている。政府の決定はこれを受けたものだ。

 宣言解除地域では当面、飲食店への営業時間短縮要請を継続するという。だが、政府の分科会では、重点措置の適用を見送ったことに対して、メンバーから異論が出ていた。

 今回の感染「第5波」では、全国の重症者数が過去のピーク時を大幅に上回った。東京都では一時、医療体制が逼迫(ひっぱく)し、自宅療養中に亡くなる人が相次いだ。

「第6波」の警戒怠れぬ

 高齢者へのワクチン接種が進めば重症者数は抑えられるとの楽観的な見通しから、医療体制の拡充が遅れた。こうした事態を招いた政府の責任は重い。

 国民に行動の自粛を求めながら東京オリンピック・パラリンピックの開催に踏みきり、相反するメッセージが伝わったことも忘れてはならない。

 専門家はワクチンの効果を認めつつも、冬の感染「第6波」への警戒を呼び掛けている。再拡大に備えて、医療や保健所の体制を拡充しなければならない。

 感染者の急増で保健所などによる入院調整が滞り、治療を受けられない人が出ないよう、職員の応援態勢や医療機関との連携を強化する必要がある。

 重症化を防ぐ治療薬を効率的に投与できる体制の整備や臨時病床の確保も欠かせない。状況に応じて医療従事者を派遣する仕組み作りも重要だ。

 政府は11月初めまでに希望者へのワクチン接種を終えることを目指している。それを踏まえて、宣言が再発令されるような事態になっても、従来のような厳しい行動制限は取らない方針だ。

 ワクチン接種済み証や陰性証明書を条件に、会食やイベントの人数制限を緩和し、旅行や帰省など都道府県を越えた移動の自粛を求めないという。飲食店や旅行業者など民間企業による幅広い活用も認める方針だ。

 だが、制限の緩和に向けては課題が多い。

 まず、ワクチンは万能ではないということだ。重症化率や死亡率を下げられるが、感染を完全に防げるわけではない。

 英国やシンガポールなどワクチン接種が先行した国では、行動制限を緩めた結果、感染の再拡大を招いている。

接種証明の活用が課題

 証明書の活用は、運用次第で排除や差別につながりかねないという懸念がある。

 持っていない人へのサービス提供拒否などが広がらないか心配だ。職場で接種の圧力がかかることは避けなければならない。接種を受けたかどうかは重要な個人情報だ。デジタル化にあたっては漏えいを防ぐ仕組みも必須だ。

 医学的な理由で接種を受けられない人もいる。陰性証明書の取得には検査費用がかかり、有効期間も短い。これらの点にも配慮することが必要だ。

 証明書の活用のあり方については、国会できちんと審議されなければならない。感染予防との両立を図れるよう、政府は専門家の意見も尊重すべきだ。

 政府は実証実験を行い、段階的に緩和するという。だが、観光振興策の実施も検討課題に挙げられている。旅行需要喚起策「GoToトラベル」などが念頭にあるのだろうが、アクセルを踏みすぎてはならない。

 感染状況が再び悪化した場合には、速やかに制限を強化することは当然だ。

 菅義偉首相はきのう、自らの取り組みについて「批判もあったが、いまや効果は明らかで、明かりは日々輝きを増している」と成果を強調した。任期中の全面解除を目指していたとの見方もある。

 自民党の総裁選を経て、週明けには新たな首相が選ばれる。新政権には、これまでのコロナ対策を検証し、「ウィズコロナ」に向けた戦略を明確にすることが求められている。

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