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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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 「政治の世界は時計の振り子だ」。自民党の政治家、前尾繁三郎(まえお・しげさぶろう)の言葉という。安保改定で激しい政治対立を招いた岸信介(きし・のぶすけ)の政権の後、低姿勢・経済優先路線に転じた池田勇人(いけだ・はやと)首相の腹心といわれた政治家だった▲前尾が親しい新聞記者に先のように語ったのは、池田が退陣して岸の弟の佐藤栄作(さとう・えいさく)へと政権が代わる時期だったという。自民党長期政権における派閥政治による疑似政権交代効果は、その後は「振り子理論」と呼ばれるようになった▲池田の派閥、宏池会(こうちかい)を引き継いだ前尾は自身が首相になることはなかった。だが派閥の「振り子理論」は昭和の自民党の長期政権をもたらす。さて今日、宏池会を引き継いだ岸田文雄(きしだ・ふみお)氏が第100代首相となっての新内閣発足である▲総裁選で富の再分配を重視する「新しい資本主義」を打ち出し、現状を「民主主義の危機」と断じた岸田氏だった。何やら振り子がブンと振れそうな物言いだが、個々の論点を聞けば近年の政権の政策の大転換というよりも補完に近い▲注目の人事も初入閣者13人をそろえ、新設の経済安全保障担当相やコロナ対策3閣僚に配するなど岸田色をアピールした。ただ党内実力者に配慮した党人事や重要閣僚人事の示すところ、権力の重心がさほど動いたようには見えない▲かつての自民党の振り子は、世論の変化を先取りして党の時代への適応をもたらした。それに失敗しての政権交代も経験した今日、来たるべき総選挙で国民はその微妙な振れ幅をどう評価するのだろう。

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