ナイトカルチャーを「使い捨て」にした政府 音楽界の苦悩と怒り
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若者が集まり、騒々しくて、ちょっと怪しい。そんなイメージを抱いてしまいがちな日本のクラブだが、実はかねて世界から注目されてきた。特に東京はクラブの環境が充実していて、レコード店の数も多いことを音楽業界が高く評価。だからこそ、クラブ文化は東京パラリンピックの開会式でクローズアップされた。しかし新型コロナウイルス禍で深刻な危機にさらされた現場を、政府は親身に助けようとはしない。観光の中核にクラブを含めた「ナイトカルチャー」を据えておきながら、まるではしごを外して見捨てたかのようだ。【菅野蘭/デジタル報道センター】
市場規模は9割近く縮小
8月24日、東京パラリンピックの開会式。選手が入場するシーンで多用されたのはクラブ向けの音楽だった。ヘッドホンをして手を振りながら曲をかけ、各国の代表を迎えるDJ。聖火の到着を彩ったのは、世界のヒップホップに大きな影響を与えた東京出身のDJ・Nujabes(ヌジャベス)の楽曲だ。カラフルな光と音が交わった夜の国立競技場は、まるで巨大なクラブに。ツイッターには「かっこよくて気持ちいい」「興奮した」と喜ぶ声が上がった。
クラブ文化は、なぜ4年に1度の祭典を彩ることになったのか。
イギリスの音楽メディア「DJ Mag」が毎年発表する世界のクラブ番付で、東京のクラブは長年にわたって100位内に入っている。2017年には、音楽のデータベースサイト「Discogs」などが、クラブ文化を支えるレコード店の数について「世界で最も多い都市は東京」と公表した。海外から見れば、クラブは「日本が誇るべき顔のひとつ」なのだ。
そんなクラブ業界は、新型コロナの感染拡大で厳しく追い込まれている。ぴあ総合研究所は5月、2020年の国内ライブ・エンターテインメントに関する調査結果を公表。音楽分野の市場規模は、前年から86・1%も減って589億円まで縮小し「壊滅的な危機」になっていた。
文化施設への助成金を国に求める有志グループ「#Save Our Space」が20年7~8月に全国のライブハウスとクラブ計410事業者を調べたところ、402事業者は2月以降に少なくとも1カ月以上、維持費が売り上げをオーバーして赤字に陥っていた。さらに12事業者は、運営資金が尽きるなどで既に廃業したり近々の廃業を予定したりしていた。
国内観光を活性化させ得る存在
「結局、お金を作らなければ価値がないと捉えられるんですよ。それは思い知りましたね」
「#Save Our Space」発起人の一人で、ファッションブランドのショーの音楽も手がけるDJでミュージシャンのMars89(マーズエイティーナイン)さん(31)が取材に応じたのは9月上旬だった。8月に開かれた国内最大級の野外音楽イベント「フジロックフェスティバル」(新潟県湯沢町)、そして野外音楽フェスティバル「NAMIMONOGATARI(波物語)2021」(愛知県常滑市)と、開催すること自体や新型コロナの感染対策の不備に批判が渦巻いたタイミングだ。…
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