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あの感動の調べをもう一度。注目公演の模様を鑑賞の達人がライブ感たっぷりに再現します。

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山田和樹と日フィル、ホールの特性を生かしたこだわりの「惑星」

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正指揮者として日フィルの新シーズンの幕開けを担った山田和樹 (C) 山口敦
正指揮者として日フィルの新シーズンの幕開けを担った山田和樹 (C) 山口敦

 英国の名門バーミンガム市交響楽団の首席指揮者に就任することが発表された山田和樹が指揮台に立った日本フィルハーモニー交響楽団の芸劇シリーズ(9月5日、東京芸術劇場)について振り返る。プログラムはラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(独奏・清水和音)とホルストの組曲「惑星」。山田はきめ細やかな音作りによる完成度の高い演奏でその実力をいかんなく発揮し会場を大いに沸かせた。(宮嶋 極)

 「惑星」を聴きながら感じたのは山田が振ると日本フィルのサウンドの質感がグンと向上するなあ、ということであった。細部にまで神経を研ぎ澄まして作品の魅力を掘り下げていく山田の指揮によって、オーケストラの底力が呼び覚まされていくかのようである。この若きマエストロは世界の第一線で活躍する指揮者の多くが持ち合わせている〝自分独自のサウンド〟を明確にイメージし、それをオーケストラに無理なく実践させる力がある。そんな彼の豊かな資質がこの日の演奏からも如実に伝わってきた。今の日本の若手指揮者の中でかつての小澤征爾のごとく世界をまたにかけて活躍できうる候補の最右翼であることは間違いないだろう。

 「惑星」はいわゆる4管編成の大規模な作品であるが弦楽器は舞台上の密を避けるために12型と小ぶりであった。しかし、音量バランスがうまく調整されていたため、過不足やパート間のデコボコを感じさせる箇所がなかったことは驚きである。4管編成の場合、通常であれば弦は16型以上で臨むことが多い。つまり譜面の指定通りの数の管楽器に対して弦は20人も少ないのである。にもかかわらず、セクション間の均衡を保ちながら音量面でも物足りなさを感じさせない音作りは簡単にできるものではないはずだ。指揮者の要求に的確に応えた日本フィルも見事であった。

 音量のコントロールに関して山田の細心の工夫を垣間見ることができた場面をひとつ紹介しよう。第7曲「海王星」、宇宙のかなたから響くような女声合唱が入る終曲である。合唱は7人、下手の舞台裏から歌ったのだが、声量の増減に合わせて舞台裏へ出入りするための扉の開閉具合を調節していたのである。大宇宙の霊感のような声が近づいてくるのに合わせて扉は開かれ、声が離れていくに従って閉じられていく。最後、消え入るように終わる前には扉は完全に閉められた。ホールの特性も考慮した山田のこだわりによって表現の幅が広がり、宇宙をテーマにした作品にふさわしいスケール感が余すところなく表現されていた。

ラフマニノフのソロで安定感のあるソロを聴かせた清水和音。山田と清水の協演は今年3月以来 (C) 山口敦
ラフマニノフのソロで安定感のあるソロを聴かせた清水和音。山田と清水の協演は今年3月以来 (C) 山口敦

 前半のラフマニノフのピアノ協奏曲第3番は必要以上に叙情性に流されたり、あるいは勢いに任せたりすることなく、清水の安定感のあるソロを支えながら端正で美しい演奏に仕上げていた。

 終演後は当然のごとく拍手が鳴りやまず、山田はオケ退場後のステージに呼び戻されていた。世界のひのき舞台で、さらなる活躍がますます楽しみである。

公演データ

【日本フィルハーモニー交響楽団第233回芸劇シリーズ】

9月5日(日)14:00 東京芸術劇場コンサートホール

指揮:山田和樹

ピアノ:清水和音

合唱:ハルモニア・アンサンブル

コンサートマスター:扇谷 泰朋

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調Op.30

ホルスト:組曲「惑星」Op.32

※今回の公演の模様はライブ配信も行われ、アーカイブで3カ月間購入することができる

https://japanphil.or.jp/concert/24644

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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