埼玉県の公立小学校教員の男性が、教員には認められていない残業代の支払いを県に求めた訴訟の判決がさいたま地裁であった。
男性の勤務実態に照らして請求は棄却されたが、判決は、教員の給与体系を定めた教職員給与特別措置法(給特法)について「もはや現場の実情に適合していないのではないか」と指摘した。
国や自治体は、司法の意見を真摯(しんし)に受け止める必要がある。
1971年制定の給特法に基づき、公立校の教員には残業代が出ない代わりに、基本給の4%分が一律で支給されている。だが、これは当時の学校の平均残業時間から算出された割合である。
残業が「過労死ライン」とされる月80時間を超える教員が少なくない現状には合っていない。
仮に、実態に見合う残業代を支給した場合、年間9000億円に達するという試算もある。
校長が教員に時間外勤務を命じることができるのは、政令によって職員会議や学校行事など4項目に限定されている。
だが実際は、それ以外にも登校の見守りやテストの採点、部活動指導など、多岐にわたる仕事が正規の時間外に及んでいる。
4項目以外の時間外勤務は「自発的な活動」とみなされ、学校での労働時間の管理が甘くなる要因となってきた。
そのため、「長時間労働の温床になっている」として給特法の見直しを求める声が、教育現場や専門家から出ていた。
にもかかわらず、基本的な枠組みが変わっていないのは、教職を他の職業と異なる「聖職」とみなし、教員の献身を当然視する考え方が社会に根強いためだ。
給特法の本来の趣旨は教員の働き過ぎを防ぐことにある。その目的を果たせなくなっている以上、抜本的な見直しが避けられない。
過重労働が若者たちに敬遠され、教員のなり手が近年減ってきている。
業務内容を精査して負担を減らす方策を講じるなど、働き方改革を一層進めなければならない。教員の数も増やすべきだ。
給与と働き方の両面で、学校を魅力ある職場にしていく必要がある。それが人材確保に向けた第一歩だ。