イルカの神経で知る環境汚染物質の有毒性 愛媛大の研究グループ

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波打ち際に打ち上げられて衰弱したカズハゴンドウを助ける住民ら=茨城県鉾田市で、2015年4月10日午前9時28分、岩本直紀撮影 拡大
波打ち際に打ち上げられて衰弱したカズハゴンドウを助ける住民ら=茨城県鉾田市で、2015年4月10日午前9時28分、岩本直紀撮影

 愛媛大沿岸環境科学研究センターの落合真理・特任助教(環境毒性学)ら研究グループはイルカの一種・カズハゴンドウの体細胞を神経細胞へとダイレクトリプログラミング(直接分化誘導)することに初めて成功した。さらに、誘導で得た神経細胞を、代表的な環境汚染物質であるポリ塩化ビフェニール(PCBs)の代謝物に曝露(ばくろ)した結果、8割以上の細胞で「アポトーシス(細胞死)」を確認。神経毒性調査の進展につながる技術となりそうだ。

 研究結果は米国化学会の学会誌「Environmental Science&Technology」に掲載された。それによると、研究グループは2015年、茨城県鉾田市の海岸で約160頭が座礁したカズハゴンドウの個体組織を使って線維芽細胞を培養した。さらに低分子化合物の混合液で数週間処理したところ、神経細胞のような形態がある細胞が得られ、遺伝子発現解析などを行った結果、人工的に誘導された「誘導神経細胞」であることが実証された。

 体細胞から多能性幹細胞であるiPS細胞を経ず、神経細胞などへ人工的に誘導するダイレクトリプログラミングは基礎研究や再生医療の分野で注目されており、鯨類では初の成功例。

今回の論文を示す落合真理・特任助教。茨城県鉾田市の現場には座礁直後に駆けつけた=松山市文京町の愛媛大で2021年10月4日、松倉展人撮影 拡大
今回の論文を示す落合真理・特任助教。茨城県鉾田市の現場には座礁直後に駆けつけた=松山市文京町の愛媛大で2021年10月4日、松倉展人撮影

 さらに研究グループはこの神経細胞をPCBsの代謝物である水酸化PCBに24時間曝露した。その結果、神経細胞の80%以上がアポトーシスを起こしていた。アポトーシスは自身の存在に不利益となる細胞や、損傷がひどい細胞を死なせるメカニズム。水酸化PCBへの曝露で細胞が崩壊した可能性がある。アポトーシスは人体では胎児の手足指の形成(水かきの細胞消失)のほか、ウイルスに感染したり、がん細胞化などの遺伝子異常をきたした細胞の除去などにも作用する。

 環境中に放出されたPCBsなど残留性有機汚染物質は地球全体に広がり、愛大の調査では1990年代に265種類の有機汚染物質が海生哺乳動物から検出されている。研究グループは今回の個体など茨城の座礁イルカの脳からもPCBsを検出した。

 落合さんは米カリフォルニア大サンタクルーズ校で海洋生物学を学んだ後、2009年に愛大大学院に入学し、シャチやイルカなどに残留する汚染物質の分析を続けてきた。「汚染物質により、アポトーシス以外のことも起こっている可能性がある。各種の物質による複合汚染を探るとともに、他の海生哺乳類にも今回の毒性評価技術を応用していきたい」と話している。【松倉展人】

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