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「一家に1台」再来へ挑む 各世代に寄り添い、ミシン開発 山崎一史さん=中川悠 /大阪

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子育て世代向け、シニア向けの軽量、シンプルなミシンを手にする山崎一史さん。社内には祖父、父が手掛けた歴代ミシンも飾られている 拡大
子育て世代向け、シニア向けの軽量、シンプルなミシンを手にする山崎一史さん。社内には祖父、父が手掛けた歴代ミシンも飾られている

 「ミシンって難しそうだから苦手。でも実は使ってみたい」。そんな声に寄り添って開発された初心者向けミシンの人気が続いている。構想5年、開発2年をかけて2020年3月に発売された「子育てにちょうどいいミシン」。複雑な機能は取り去り、サイズは本棚に入るくらい小型化、片手でも持てる軽さを実現。値段は約1万円という手ごろな価格に設定した。

 偶然にも新型コロナウイルスの感染拡大でマスク需要が高まっているタイミングと重なり、人気に火が付いた。「毎日たくさんの電話がかかり、発売から供給が追いつかず一時は3カ月待ちの状態でした」と話すのは、大阪市生野区のミシンメーカー「アックスヤマザキ」代表取締役の山崎一史さん(43)。1年で5万台を販売した。

 アックスヤマザキは、1946年に山崎さんの祖父が立ち上げた。海外輸出をはじめた祖父、海外生産・国内販売にかじを切った父。しかし、国内ミシン市場の縮小などの影響を受け、2005年に売り上げが全盛期の3分の1にまで落ち込み、初めて2代目社長だった父の弱音を聞いた。15年に事業を引き継いだ時は1億円ほどの赤字に陥りかけたタイミングだった。

 ミシン業界は低迷し、自社には強みもない。「どうしてミシンが苦手なのか」を周囲に聞いていくと、小学校の頃から苦手意識を持っていたことが浮かび上がってきた。

 ずっとつま先立ちをして耐えていた山崎さんは、何とかしなければと一念発起。何度も子どもを対象としたテストを重ね、開発に3年をかけ、子ども向けミシン「毛糸ミシンHug」を商品化した。使うのは毛糸で、けがをしないよう安心、安全な設計を施した。

 全く未経験だった玩具市場に飛び込みで営業をかけた。玩具バイヤーの反応も上々でおもちゃ売り場で売り切れが続いた。山崎さんは「これでミシンを世の中に見てもらえる。事業を継いで初めてワクワクすることができた」と当時を振り返る。珍しい毛糸ミシンの評判は親の間で広がり、孫へのプレゼントに買いたいとシニアからも問い合わせが来た。

 今は社会や顧客の声を丁寧に集め、おもしろいと思うこと以外はしないと心に決めている。21年には「孫につくる、わたしにやさしいミシン」を発売した。技術はあるが、重い、視力が衰えたなどの理由でミシンから離れてしまったシニアを対象にしようと、たくさんの高齢者に会い、声を集めた。「ミシンで脳トレ」と銘打ち、脳トレで有名な川島隆太博士に監修を依頼。針の穴に糸を通しやすくし、操作もシンプルにするなど工夫した。

 「合言葉は、ミシンをもう一度、一家に1台。1年に1商品ずつ、新しい商品を打ち出していきたい」。大切なのは現場の声に耳を傾け続けること。山崎さんから生まれる新しいアイデアが、大阪から全国のミシン業界を盛り上げていく。<次回は11月12日掲載予定>


 ■人物略歴

中川悠(なかがわ・はるか)さん

 1978年、兵庫県伊丹市生まれ。NPO法人チュラキューブ代表理事。情報誌編集の経験を生かし「編集」の発想で社会課題の解決策を探る「イシューキュレーター」と名乗る。福祉から、農業、漁業、伝統産業の支援など活動の幅を広げている。

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