全国最多の7万人近い学生数を誇る大学を舞台にした事件だ。
日本大学理事の井ノ口忠男容疑者と、大阪市の医療法人「錦秀(きんしゅう)会」前理事長の籔本雅巳容疑者が、背任容疑で東京地検特捜部に逮捕された。
日大付属病院の建て替えを巡って昨夏、設計会社に支払われた費用のうち2億2000万円を不正に送金させ、日大に損害を与えた疑いがある。
特捜部は不透明なカネの流れを徹底的に解明してほしい。
井ノ口理事の指示で、籔本前理事長が全株式を持つペーパーカンパニーに振り込まれたという。その後、2500万円は複数の会社を通じ、井ノ口理事に渡ったとされる。誰が、何のために、どれだけのカネを手にしたのか。捜査の大きなポイントだ。
設計会社を選定したのは、日大の関連会社「日本大学事業部」だった。井ノ口理事が業務を統括しており、選定時に設計会社の評価点を高く改ざんした疑いが持たれている。
日本大学事業部は、大学の物品調達や資産管理など関連業務を広く手がけ、売り上げを伸ばしていた。半面、日大による全額出資のため、外部のチェックが働かない構造だった。
日大の経営トップである田中英寿理事長の説明責任も問われる。
2008年から理事長を務め、絶大な権限を持つ。就任後に日本大学事業部を設立し、側近の井ノ口理事に運営を任せてきた。自宅が特捜部の捜索を受けている。
3年前に起きたアメリカンフットボール部の悪質タックル問題では、第三者委員会が「組織統治の機能不全を放置した」と批判した。田中氏は説明を求められたが、記者会見を開いていない。
籔本前理事長が関わった経緯も焦点となる。
錦秀会は大阪府を中心に、複数の病院や介護施設、看護学校などを展開する日本有数の医療法人だ。トップの籔本前理事長は政官界に幅広い人脈を持っていた。
日大には昨年度、国費から約90億円の私学助成金が支払われている。公的な存在であり、容疑が事実なら、食い物にされたことになる。特捜部は全容解明に向け、捜査を尽くす必要がある。