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はやぶさ2

探査機「はやぶさ2」がリュウグウで試料を採取して持ち帰る6年の旅を完遂。分析や次のミッションを解説。

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はやぶさ2が持ち帰った石とは/上 分析が進む太陽系の「普通」

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原始太陽系では、太陽から遠く水が氷として存在していた領域と、太陽に近く揮発してしまっていた領域があったと考えられ、その境界を「スノーライン」を呼ぶ。小惑星リュウグウはスノーラインの外側で生まれたとされる=JAXA提供
原始太陽系では、太陽から遠く水が氷として存在していた領域と、太陽に近く揮発してしまっていた領域があったと考えられ、その境界を「スノーライン」を呼ぶ。小惑星リュウグウはスノーラインの外側で生まれたとされる=JAXA提供

 小惑星探査機「はやぶさ2」が地球へ持ち帰った小惑星リュウグウの石。今年6月から初期分析が進められている。初期分析は、1年という定められた期間内に、はやぶさ2プロジェクトの一環として太陽系や地球の謎を解き明かす研究だ。世界14カ国から269人の研究者が参加する。貴重な小惑星の物質を扱う緊張感の中、研究者たちは、何を調べ、何を解き明かそうとしているのか。初期分析に携わる6チームのリーダーたちの思いと舞台裏を、3回にわたって紹介する。【永山悦子、池田知広】

 はやぶさ2は2018~19年、地球と火星の間にあるリュウグウを探査し、2度の着陸を成功させた。そのうち1回は、衝突装置をぶつけて作ったクレーターから噴出した砂などがたまった場所への着陸だった。20年12月には、リュウグウの石の入ったカプセルを地球へ届けた。カプセルには想定を大幅に上回る5・4グラムもの石や砂が入っていた。

 はやぶさ2プロジェクトは、技術的な工学分野の目標と科学的な理学分野の目標を掲げる。リュウグウへの往復飛行、着陸、衝突実験、カプセル帰還など、工学目標は既にすべて達成した。理学目標についても、リュウグウの上空からの観測などは達成済みだ。残っているのが、持ち帰った石を分析し、そこから新たな成果を上げることだ。それが「初期分析」と位置付けられており、期間は今年6月から来年6月までの1年間と決まっている。その後、世界中の研究者を対象に研究テーマを募る期間に移る。

 初期分析を取りまとめる橘省吾・東京大教授は「10年前に(はやぶさ2の)開発に参加したときは、(試料の分析は)遠い先のことだと思っていました。それがいよいよ現実になった。初期分析はオーケストラのようなもの。全体の分析がそろって一つのハーモニーが作り出される。どの楽器(分析)も重要で、はやぶさ2のミッションを完遂するために欠かせないものです」と説明する。

 初期分析チームは計約0・3グラムの試料を使い、「太陽系の起源と進化を明らかにする」「地球の海や生命の材料の起源に迫る」という成果を目指す。小惑星は「太陽系の化石」とも呼ばれ、太陽系ができたころの姿を残していると考えられる。その中でも、リュウグウはC型と呼ばれるタイプの小惑星だ。水や有機物があり、地球の海や生命の材料となったような物質が存在する可能性があるとされる。

 初期分析は6チームに分かれ、リュウグウの「化学組成」「石」「砂」「揮発性物質(ガス)」「固体有機物」「水に溶ける有機物」をそれぞれ分析する。具体的には次のようなことを調べる(< >内はチームリーダー)。

・化学組成<圦本(ゆりもと)尚義・北海道大教授>=リュウグウがどのような元素でできているかを明らかにする

・石<中村智樹・東北大教授>=2ミリ以上の大きな石を使い、どのような鉱物が含まれるか、水を取り込んだ鉱物(含水鉱物)があるかを調べる

・砂<野口高明・京都大/九州大教授>=0・1ミリ程度の砂を使い、「宇宙風化」と呼ばれる現象(天体の表面が太陽風や宇宙線、隕石=いんせき=の衝突などによって変化する現象)を調べる

・揮発性物質<岡崎隆司・九州大准教授>=カプセルに入っていたガスや石から抽出する揮発しやすい性質の物質を分析し、太陽系やリュウグウの歴史を探る

・固体有機物<薮田ひかる・広島大教授>=岩石の中にある水に溶けない有機物の構造や分布などを調べ、太陽系における有機物の歴史に迫る

・水に溶ける有機物<奈良岡浩・九州大教授>=水などに溶ける有機物の「アミノ酸」などを分析し、生命の材料物質の可能性を調べる

 これらの分析から何を明らかにしようとしているのか。

 一つは、…

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【はやぶさ2】

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