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はやぶさ2

探査機「はやぶさ2」がリュウグウで試料を採取して持ち帰る6年の旅を完遂。分析や次のミッションを解説。

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はやぶさ2が持ち帰った石とは/下 「昔話が楽しみ」研究者の思い

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2019年2月、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウへ最初の着陸をした直後の画像。たくさんの破片が飛び散り、多くの物質を採取できた=宇宙航空研究開発機構(JAXA)提供
2019年2月、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウへ最初の着陸をした直後の画像。たくさんの破片が飛び散り、多くの物質を採取できた=宇宙航空研究開発機構(JAXA)提供

 探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウで採取した、約5・4グラムの真っ黒い石や砂。来年6月までの初期分析に当たる6チームのリーダーが、この貴重な試料に対して抱く思いはさまざまだ。「小惑星の物質って、自分にとってどんな存在ですか?」。問いに対する答えからは、それぞれが研究にかける情熱が伝わってくる。【池田知広、永山悦子】

“遺言”残して死んでいく「師匠」

 「気の毒な存在だなって思うんです。申し訳ない」

 揮発性物質(ガス)を分析する岡崎隆司・九州大准教授の感覚は独特だ。

 小惑星は「太陽系の化石」と呼ばれる。ドロドロに溶けて高温になった過去がある地球などの惑星と違い、太陽系が誕生した約46億年前の物質を比較的よくとどめているからだ。

 岡崎さんは「ガスを抽出するために(小惑星からやって来た)隕石=いんせき=を破壊することが多いのですが、46億年も無事に『生きてきた』のに、僕が蒸発させていることになる。でも科学的に貴重な、太陽系の成り立ちを教えてくれる。死に際に大切な情報を残して死んでいく師匠のようです」と語る。

 こうした感覚をもとに、岡崎さんはリュウグウの試料を破壊してしまう前に、さまざまな非破壊の分析を組み込んだ。まず表面を赤外線や電子顕微鏡で観察。ガスに関連する窒素などの軽い元素を分析し、さらに中性子を照射してイリジウムなど微量元素も分析する。「大事な試料なので、さまざまな情報を同時に取得する計画なんです」と岡崎さんは説明する。

 小惑星の試料を「実験室と宇宙をつなぐ『扉』」と表現するのは、リュウグウ試料の化学組成を明らかにする予定の北海道大・圦本(ゆりもと)尚義教授だ。

 これまで圦本さんは多数の隕石を分析し、太陽系の起源と進化に迫ってきた。「僕にとっては小惑星は天文学で、隕石は化学。小惑星の物質はその過渡的な段階にあるものです。その扉を開けると、彗星=すいせい=や太陽系外惑星など、もっと遠くの宇宙につながっていく。だから隕石がどこから来たものかは、すごく興味があるんで…

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【はやぶさ2】

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