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第49回衆院選

岸田文雄首相が衆院選を10月19日公示、31日投開票で実施すると表明。短期決戦の選挙戦となります。

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核のごみ、突然問われた港町 決断前の「重苦しい雰囲気」の意味

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「核のゴミ最終処分場 建設絶対反対です」と書かれた看板=北海道寿都町の町役場近くで2021年10月8日、高山純二撮影
「核のゴミ最終処分場 建設絶対反対です」と書かれた看板=北海道寿都町の町役場近くで2021年10月8日、高山純二撮影

 世界が頭を抱える難題を問う選挙が近づいてきた。岸田文雄首相の下で初めて実施される衆院選ではない。原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査が進む北海道寿都町で21日に告示される町長選。無害化するまで「10万年」といわれる「核のごみ」を受け入れるか否か。人口わずか2800人の港町が揺れている。

20年ぶり選挙戦に

 札幌から車で3時間。寿都町中心部にある飲食店に入ろうとすると、店頭の看板に目がとまった。「『核のごみ』の最終処分場選定、町長選に関連する展示物や配布物の設置はお断り」。住宅街にも「建設絶対反対」などと書かれた看板が設置されており、ピリピリした空気が漂う。

 警察署や原子力発電環境整備機構(NUMO、ニューモ)の事務所がある通りに移動すると、核のごみ問題に絡む看板類は見当たらない。静かな町の雰囲気が保たれていた。昨年9月に発足した反対派の住民団体「子どもたちに核のゴミのない寿都を!町民の会」の共同代表を務める三木信香さん(49)は「それだけしがらみがあって自分の気持ちを出せないということだ。町長選があるとは思えないくらい、町は静かだ」と話した。

 町民の会は同10月、調査応募の賛否を問う住民投票条例の制定を求め、署名活動を実施し、町に直接請求した。「『核のごみには反対だけど、署名はできない』という人もいた。ママ友たちと会っても、核のごみ問題には一切触れてはいけない空気が流れている」。三木さんはこう話し、重苦しい町の雰囲気に眉をひそめた。

 日本海に面し、漁業や水産加工業を基幹産業とする静かな港町が一変したのは昨年8月。片岡春雄町長(72)が「財政改善が見込める」などとして、最終処分場選定の第1段階となる文献調査に応募する考えを表明した。これに対し、議会の中でも反対論が浮上し、越前谷由樹元町議(69)が調査の撤回を掲げて立候補を表明。4回連続で無投票当選してきた片岡氏との間で、同町では20年ぶりに選挙戦となる見通しだ。

 文献調査に伴い、町と周辺自治体には2年間で最大20億円の交付金が落ちる。片岡氏は「いま財政は逼迫(ひっぱく)していることはないが、将来も安泰とは限らない」と主張。将来の支出に備えて交付金を基金に積み立てる考えを示している。一方、越前谷氏は「古里の自然はお金では買えない、お金と比較することのできないものだ」と批判。交付金に頼らない町づくりと調査撤回を訴える。

「保守の町」の地殻変動、見えない勝敗の行方

 文献調査を巡っては、2007年に高知県東洋町が名乗りを上げたが、町民の激しい反対で撤回している。今回も民意は反対なのか。

 越前谷氏は11日午後、共産党の衆院比例北海道ブロックの立候補予定者と街頭演説を行った。反対派の住民団体のほか、革新系の町議や町外の反核団体なども越前谷氏を支援。事務所内には立憲民主党や社民党の参院議員らの応援ポスターが掲げられている。

 19年の寿都町議選の結果をみると、今回の町長選で片岡氏を支持するとみられる町議5人の得票数(計1182票)は、反対派とされる町議4人の得票数(計757票)を上回る。単純比較で言えば、片岡氏の優位に見える。片岡氏は全国の自治体として初めて風力発電を誘致するなど、その行政手腕を高く評価する声もある。

 しかし、片岡町政を支えてきた勢力にも地殻変動が起きているようだ。関係者によると、従来は片岡氏支持だった保守系の産業5団体のうち、水産加工業と観光業の2団体が「反対」に回った。5団体の一つ、漁業協同組合は片岡氏支持とみられる複数の町議の出身母体だが、阿部茂樹専務理事は「個々の組合員が決めることだ」と話しており、投票先を自主判断に委ねるスタンスだ。

 観光を基幹産業とする北海道。「核のごみ」による風評被害への懸念も強く、鈴木直道知事のほか、周辺自治体からも反対の声が相次いでいる。町の指定管理者として「道の駅」を運営する寿都観光物産協会の事務局長、渡部拓也さん(37)も個人的な意見として「観光の観点ではプラスになるものではない」と話し、受け入れには慎重だ。

強まる町民の反対

 町民の反発も根強い。昨年10月には片岡氏の自宅に火炎瓶が投げ入れられる事件が発生。函館地裁は先月、現住建造物等放火未遂と火炎びん処罰法違反(使用)の罪に問われた男に懲役3年・執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。

 町民の会の三木さんは「これ以上、町を分断させないためにはあまり騒がない方がいいような気もする」と打ち明ける。ただ、「子どもたちが将来、この問題に巻き込まれたらかわいそうだ。活動をやめて後悔したくない」とも話し、反対運動を続けていく考えだ。

 地震や火山活動が活発な地震大国の日本で「核のごみ」を長期間安全に地層処分できるのか。13日には道内の地質学者らが寿都町について「地質的特徴から不適地だ。今後10万年の地殻の挙動を予測し地震の影響を受けない場所を選定するのは、今の地質学や地震学の水準ではで…

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