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橋爪大三郎・評 『だれも死なない日』=ジョゼ・サラマーゴ著、雨沢泰・訳

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『だれも死なない日』
『だれも死なない日』

 (河出書房新社・3190円)

乾いた文体、人間観察の鋭さ際立つ

 ある日を境に、誰も死ななくなった。ひどい交通事故でも瀕死(ひんし)の病人でもまだ生きている。連日死者はゼロ。大騒ぎになった。

 政府は原因を究明すべく専門家を集めた。葬儀社は仕事がなくなり、補助金をよこせと陳情した。生命保険の解約希望も殺到した。八○歳になったら死んだものとして、保険金を受け取れますからご安心を。保険会社の苦しまぎれの対応だ。教会もあわてた。死がなければ復活もない。神はいるのか。病院も大変だ。誰も死なないので病床が逼迫(ひっぱく)する。コロナ禍のような緊急事態だ。仕方なく、病人を家族に引き取ってもらうことにした。どうせ死なないから大丈夫ですよ。自宅療養というわけだ。

 これはこの国だけの現象で、隣国では人が死んでいるらしい。ある一家は、死ねない老人をロバに乗せ、国境をめざした。国境を越えると死んだので、埋葬して戻った。これが報じられると、冷酷な一家だと非難が集中。でも翌日から、死ねない身内を抱えた家族が列をなして国境に向かった。

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