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先月のピカイチ 来月のイチオシ

毎月数多くの公演に足を運び耳を傾けている鑑賞の達人が、1カ月で最も印象に残った演奏と、これから1カ月で聴き逃せないプログラムを紹介します。

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先月のピカイチ 来月のイチオシ

至高のバルトークで魅せたパーヴォ・ヤルヴィとN響……21年9月

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首席指揮者として最後のシーズンを迎えたパーヴォとN響。9月の定期も高水準の演奏で話題を呼んだ 写真提供:NHK交響楽団
首席指揮者として最後のシーズンを迎えたパーヴォとN響。9月の定期も高水準の演奏で話題を呼んだ 写真提供:NHK交響楽団

 全国で緊急事態宣言などが全面解除されて迎えた芸術の秋。海外アーティストの来日も増えそうで音楽ファンの期待も膨らむ。今月は9月に開催されたステージの中からピカイチを、12月に予定されている公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただく。

◆◆9月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京フィルハーモニー交響楽団 第958回サントリー定期〉

9月17日(金)サントリーホール

チョン・ミョンフン(指揮)

ブラームス:交響曲第3番、同第4番

東フィルの9月定期では1年4カ月ぶりにチョン・ミョンフンが指揮台に立ち、熱演を繰り広げた (C)K. Miura
東フィルの9月定期では1年4カ月ぶりにチョン・ミョンフンが指揮台に立ち、熱演を繰り広げた (C)K. Miura

〈セイジ・オザワ松本フェスティバル オーケストラコンサートB〉

9月3日(金)キッセイ文化ホール

シャルル・デュトワ(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ

ドビュッシー:「牧神の午後への前奏曲」「海」/ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」/ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」

※ネット配信用非公開演奏を現場で取材

 東京フィルとその名誉音楽監督チョン・ミョンフンとの結びつきは既に20年、今や完璧な信頼関係のもとに「音楽している」ように見受けられる。この日のブラームスの「第4交響曲」はその好例といえよう。第2楽章後半での情感の濃さ、第3楽章でのすさまじい追い上げ、第4楽章での圧倒的な昂揚(こうよう)感など、稀有(けう)の快演であった。

 サイトウ・キネン・オーケストラ2年ぶりの音楽祭公演は、予想外の事態のため土壇場で中止に追い込まれたが、予定通り来日したデュトワとともに実施した無観客ネット配信用演奏は、まるでその中止の悔しさを晴らすかのような熱気。あのオケがあんなにブリリアントな音を出したのを初めて聴いた。「火の鳥」の幕切れでの圧倒的な輝かしさなど、みんなにもナマで聴いてもらえていたら!

◆◆12月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

2年ぶりの全国ツアーの実現。ツィメルマンならではのピアニズムに期待が寄せられている(C)Bartek Barczyk 拡大
2年ぶりの全国ツアーの実現。ツィメルマンならではのピアニズムに期待が寄せられている(C)Bartek Barczyk

〈クリチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル〉

12月4日(土)所沢市民文化センターミューズ アークホール/12月9日(木)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール/12月8日(水)、13日(月)サントリーホール

バッハ:パルティータ第1番、第2番/ブラームス:3つの間奏曲/ショパン:ソナタ第3番

〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第347定期演奏会〉

12月9日(木)東京オペラシティコンサートホール

飯守泰次郎(指揮)

シューマン:交響曲第1番「春」、第2番

 ポーランド生まれの巨匠クリスチャン・ツィメルマンがまた聴ける。これまで数え切れぬほど来日している人だが、今回、予定通り開催となれば2年ぶりだ。11月から公演が始まるが、彼ならではの見事なピアニズムによる清澄なバッハ、重厚なブラームス、それに極め付きのショパン——実に魅力的なプログラム。コロナ禍のため沈滞していた来日ソリスト界が少しずつだが再上昇線をたどりつつあるのを歓迎したい。これに次いでは、東京シティ・フィルとその桂冠名誉指揮者・飯守泰次郎が手がけるシューマンの交響曲全4曲連続演奏の第1回を挙げよう。円熟味をいよいよ増した飯守のドイツ・ロマン派レパートリーは聴き応え充分、明るい「1番」と、陰翳(いんえい)の濃い「2番」がどのように対比される演奏になるか。


◆◆9月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈NHK交響楽団 第1936回定期公演 池袋Cプログラム〉

9月10日(金)東京芸術劇場コンサートホール

パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)

バルトーク:組曲「中国の不思議な役人」/バルトーク:管弦楽のための協奏曲

〈ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第169回〉

9月18日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール

原田慶太楼(指揮)/小林沙羅(ソプラノ)/大西宇宙(バリトン)/東響コーラス(合唱)

ヴォーン・ウィリアムズ:「グリーンスリーヴスによる幻想曲」、イギリス民謡組曲、「海の交響曲」

 N響のバルトークは、パーヴォの明晰(めいせき)さと同楽団の機能性が最上の形で融合したモダンな快演。先鋭的な「役人」と古典的な「オケコン」の対照、音楽の躍動感と流動性、各人の巧みなソロなど、さまざまな点で感嘆させられた。これは日本のオケが成し得る現代最高のパフォーマンスと言っても過言ではない。原田&東響は、日本ではまれなヴォーン・ウィリアムズ・プロ(特に「海の交響曲」)の実現とその美感を伝える好演に感謝を込めての選出。

◆◆12月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈フォーレ四重奏団〉

12月9日(木)トッパンホール

フォーレ:「3つの歌」より 「ゆりかご」「われらの愛」、「2つの歌」より「月の光」、ピアノ四重奏曲第2番/ブラームス:ピアノ四重奏曲第3番

昨年、結成25周年を迎えたフォーレ四重奏団。トッパンホールでは9日の公演のほか、7日にもドヴォルザークやムソルグスキーを演奏する (C)Mat Hennek
昨年、結成25周年を迎えたフォーレ四重奏団。トッパンホールでは9日の公演のほか、7日にもドヴォルザークやムソルグスキーを演奏する (C)Mat Hennek

〈読売日本交響楽団 第613回定期演奏会〉

12月14日(火)サントリーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/キリル・ゲルシュタイン(ピアノ)

モーツァルト:歌劇「イドメネオ」序曲/チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番(原典版)/プロコフィエフ:交響曲第5番

 フォーレQは、同一メンバーで26年活動する稀有のピアノ四重奏団。絶妙なアンサンブルで生気とパッションにあふれた演奏を聴かせてくれる、世界最高クラスの室内楽グループだけに、昨年の結成25周年公演中止のリベンジをぜひ果たしてほしい。読響は、同楽団に中・東欧的な新味を付与しているヴァイグレのプロコフィエフも期待十分だが、何といってもチャイコフスキーのピアノ協奏曲の「原典版」の生演奏を見逃すことはできない。


◆◆9月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈座間市市制施行50周年記念 歌劇「椿姫」〉

9月5日(日)ハーモニーホール座間大ホール

古川寛泰(演出)/瀬山智博(指揮)/テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ/田中絵里加(ヴィオレッタ)/宮里直樹(アルフレード)/今井俊輔(ジェルモン)/ハーモニーホール座間オペラ合唱ワークショップ参加者、ほか

座間市の市政施行50周年を祝い、高水準で上演されたヴェルディの「椿姫」 撮影:星野渉
座間市の市政施行50周年を祝い、高水準で上演されたヴェルディの「椿姫」 撮影:星野渉

〈NHK交響楽団第1937回 定期公演Bプログラム〉

9月15日(水)サントリーホール

鈴木秀美(指揮)

J・S・バッハ:管弦楽組曲第3番/C・P・E・バッハ:シンフォニア変ロ長調、同ニ長調/ハイドン:交響曲第98番

 失礼ながら、まさか神奈川県の中核都市の記念事業で完全ノーカットの見事な「ラ・トラヴィアータ」に出会うとは予想もしなかった。2008年に座間でオペラ・ノヴェッラを立ち上げた古川はイタリア留学歴のあるテノール。「作曲家の意図にできるだけ忠実な再現」に徹してきた。ドイツでカペルマイスター経験を積んだ瀬山は小編成のオーケストラから生気あふれる音楽を引き出し、実力派ソリストを支えた。医師グランヴィルにも新進バスの加藤宏隆を起用するなど隅々まで適材適所のキャスティングで、とことんヴェルディの音楽に酔うことができた。

 N響デビューの鈴木秀美はトン・コープマンの代役ながら楽員を完全に掌握、深い味わいを出した。CPEがN響の曲目に上るのは85年ぶり、ナチュラル・ホルンは初登場と話題も豊富だった。

◆◆12月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈神戸市室内管弦楽団&神戸市混声合唱団 ヘンデル「メサイア」〉

12月12日(日)神戸文化ホール中ホール

鈴木秀美(指揮)/中江早希(ソプラノ)/中嶋俊晴(アルト/カウンターテノール)/櫻田亮(テノール)/氷見健一郎(バス)/神戸市混声合唱団

神戸市室内管弦楽団の創立メンバーでもあり、4月から音楽監督に就任する鈴木秀美
神戸市室内管弦楽団の創立メンバーでもあり、4月から音楽監督に就任する鈴木秀美

〈日本テレマン協会第283回定期演奏会〉

12月6日(月)東京文化会館小ホール

高田泰治(チェンバロ)

J・S・バッハ「ゴルトベルク変奏曲」

 神戸市民文化振興財団に所属する2つの演奏団体の音楽監督が2021年、同時に交代。鈴木秀美の室内管弦楽団、佐藤正浩の混声合唱団が初めて本格的に共演する「メサイア」は、両者の今後を占う上でも興味深い。2人ともヨーロッパでの活動歴が長く、幅広い時代の音楽の様式を的確に再現するので、非常にすっきりとした立ち姿のヘンデルのオラトリオに出会えそうな気がする。

 同じく関西に本拠を置くテレマン協会の東京定期はドイツ在住のチェンバロ奏者、高田泰治のソロで「ゴルトベルク協奏曲」。中堅として、いい味わいが出てきた頃だと思う。


◆◆9月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈読売日本交響楽団 第611回定期演奏会〉

9月29日(水)サントリーホール

井上道義(指揮)/宮田大(チェロ)

ストラヴィンスキー:管弦楽のための交響曲/ゴリホフ:チェロ協奏曲「アズール」(日本初演)/ショスタコーヴィチ:交響曲第9番変ホ長調

日本初演となったゴリホフの「アズール」より、指揮の井上(中央手間)やソロを務めた宮田(チェロ) (C)読売日本交響楽団
日本初演となったゴリホフの「アズール」より、指揮の井上(中央手間)やソロを務めた宮田(チェロ) (C)読売日本交響楽団

〈二期会創立70周年記念公演 モーツァルト「魔笛」〉

9月8日(水)東京文化会館大ホール

宮本亜門(演出)/ギエドレ・シュレキーテ(指揮)/読売日本交響楽団(管弦楽)/妻屋秀和(ザラストロ)/金山京介(タミーノ)/安井陽子(夜の女王)/嘉目真木子(パミーナ)/種谷典子(パパゲーナ)/萩原潤(パパゲーノ)/高橋淳(モノスタトス)他

モーツァルト:歌劇「魔笛」日本語字幕付ドイツ語上演

※リンツ州立歌劇場との共同制作

 東欧ユダヤ系移民の子孫で、アルゼンチンに生まれたゴリホフのチェロ協奏曲を宮田大が日本初演した。タイトルの「アズール」はスペイン語で青を意味するそうだ。自らのルーツともつながるクレズマーと前衛音楽が融合し、澄み切った空であり、吸い込まれていくような深い海のようでもある。宮田は楽器の可能性を広げる技巧も見せつつ、パーカッションやアコーディオン、オーケストラとセッションを繰り広げ実演ならではの興奮を醸し出した。指揮台に座ってソリストの競演を引き立たせるなど井上道義の照明、音響も巻き込んだ采配も見事だった。

再演となる「魔笛」では初来日の指揮者ギエドレ・シュレキーテが透明感と躍動感にあふれるモーツァルトで新風を吹き込んだ。

◆◆12月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈日本フィルハーモニー交響楽団 第736回東京定期演奏会〉

12月10日(金)、11日(土)サントリーホール

カーチュン・ウォン(指揮)/オッタビアーノ・クリストーフォリ(トランペット)

アルチュニアン:トランペット協奏曲/マーラー:交響曲第5番

日フィルの首席客演指揮者に就任するカーチュン・ウォン。12月の定期はその就任披露も兼ねる (C) 山口敦
日フィルの首席客演指揮者に就任するカーチュン・ウォン。12月の定期はその就任披露も兼ねる (C) 山口敦

〈クリチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル〉

12月4日(土)所沢市民文化センターミューズ アークホール/12月9日(木)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール/12月8日(水)、13日(月)サントリーホール

バッハ:パルティータ第1番、第2番/ブラームス:3つの間奏曲/ショパン:ソナタ第3番

 コロナ禍で海外から演奏家が来日できない時期、在京オーケストラに次々客演しその存在を知らしめたカーチュン・ウォンと日フィルのマーラー・シリーズが始まる。恣意的(しいてき)にならずにマーラーのもつ狂気から浄化まで幅広い感情を表現した演奏が印象に残っており、日フィルとの新たな歴史に期待。11月から長期滞在し、国内各地で演奏会が予定されているツィメルマンの来日公演は、バッハに始まり、ブラームス、ショパンのソナタまで、今しか聴けないピアノがあるはずだ。


◆◆9月◆◆ 宮嶋極(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団 第1936回定期公演 池袋Cプログラム〉

9月10日(金)東京芸術劇場コンサートホール

パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)

バルトーク:組曲「中国の不思議な役人」/バルトーク:管弦楽のための協奏曲

〈東京フィルハーモニー交響楽団 第958回サントリー定期〉

9月17日(金)サントリーホール

チョン・ミョンフン(指揮)

ブラームス:交響曲第3番、同第4番

 ピカイチは9月のイチオシに挙げた公演。予想通りパーヴォが指揮台に立つとN響の持てる力が余すことなく引き出される感が強い。複雑に絡み合うバルトークの音の数々をキッチリと整理し、技術的にうまく弾くという域を超えた演奏は洗練されており、指揮者の意図が明確に伝わってきた。東京フィルもミョンフンが振るとガラリと変わる。集中力の高さはなかなかのものであった。以前は燃焼度が大幅にアップする印象が強かったが、重要なエッセンスを凝縮したような演奏で、このコンビが長期間にわたる共同作業を経て到達した境地が披露されたように感じた。

◆◆12月◆◆ 宮嶋極(音楽ジャーナリスト)選

〈東京交響楽団&サントリーホール こども定期演奏会「オーケストラ・タイムマシーンⅡ(西洋音楽史)」近代史〉

12月12日(日) サントリーホール

原田慶太楼(指揮)/こども奏者/坪井直樹(司会)

こども定期演奏会2021テーマ曲 石井かのん(和田薫編曲):「まぼろし」/コープランド:バレエ組曲「ロデオ―4つのダンス・エピソード」より第4曲「ホーダウン」/小田実結子:La danse des enfants 子供たちの踊り(新曲チャレンジ・プロジェクト こどものモチーフによる若手作曲家作品)/マルケス:ダンソン第2番/ホルスト:組曲「惑星」より第4曲「木星」他

こども定期演奏会で指揮を務める原田慶太楼。こどもたちと音楽を結ぶさまざまな企画が行われる同定期も、今年で20周年を迎えた (C)N.IkegamiTSO
こども定期演奏会で指揮を務める原田慶太楼。こどもたちと音楽を結ぶさまざまな企画が行われる同定期も、今年で20周年を迎えた (C)N.IkegamiTSO

〈クリチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル〉

12月4日(土)所沢市民文化センターミューズ アークホール/12月9日(木)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール/12月8日(水)、13日(月)サントリーホール

バッハ:パルティータ第1番、第2番/ブラームス:3つの間奏曲/ショパン:ソナタ第3番

 原田慶太楼が東響正指揮者に就任後、最初に力を入れて取り組んでいるのがこの企画である。肝は子どもが考えた旋律を若手作曲家が作品に仕上げる新作の初演。以下は本人のコメント。「このプロジェクトのすてきなところは、まず曲のきっかけとなるのが、子供達が作曲したメロディーということ。それを若手の作曲家たちがどのように魔法をかけてオーケストラの作品にするのかがとても楽しみです」。ピアノの貴公子だったツィメルマンも今年65歳、円熟の境地に歩みを進めつつある。その充実ぶりはラトルとのベートーヴェン協奏曲全集の最新CDでも明らか。11月中旬から全国で開催されるリサイタルは12月の東京公演で締めくくられる。

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