- ツイート
- みんなのツイートを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷

風がやむと、眼前に広がる森と雲が水面に映し出される。「鏡の世界にいるみたいで神秘的でしょ? 静かな水面と木々に囲まれた、この空気感が大好きなんです」。昨年5月、この地で歌や演奏を「奉納」した声楽家の荒井敦子さん(67)=奈良市=は優しく語る。
奈良県北東部の宇陀市室生(むろう)向渕(むこうぢ)地区。国道165号を北に折れ、山中を車で20分走ると、開けた空間が目に飛び込む。ひっそりと水をたたえる「龍王ケ渕(りゅうおうがぶち)」。東西約150メートル、南北約100メートルの楕円(だえん)形の池で、北西南の三方を山で囲まれている。
「かつて、ここに龍神がすみ、天女が舞い降りたと言われてるんです」と荒井さん。ほとりの堀越神社には、水の神とされる豊玉姫命(とよたまひめのみこと)がまつられる。干ばつの時、住民らが雨乞いの祈りをささげたという。
音楽による地域作りに取り組むNPO法人「音楽の森」理事長を務める。県内各地で演奏活動をする中、室生地区にもよく訪れている。「ここには地元の方々が守り続ける『自然』という宝物が残されているんです」と話す。
昨春から、コロナ禍で演奏会の中止が相次いだため、「音楽は自然への奉納という原点に立ち返ろう」と、森や寺社での演奏を続けている。
龍王ケ渕では自作の歌も奉納した。
♪ 実りの秋を迎え 村は喜び 龍神さまに 感謝して祈る ♪
「歌っていると、ヨシ原の中からヘビが頭を上げ、チョウやトンボが舞い降りてきました。草木や水の反響、鳥のさえずりは他では体験できない。まさに『水鏡』のように静かに自分を見つめ直すことができます」【奈良支局長・堀川剛護】
次回は北海道です
「言わせて!県民あるある」への投稿をお待ちしています。
次回24日は北海道、31日が新潟県、11月7日が福井県です。400字程度、県名、住所、氏名、年齢、職業(元職も可)、電話番号(携帯番号も)を明記し、郵便は〒100―8051(住所不要)毎日新聞地方部「わたしのふるさと便」係、メールはt.chihoubu@mainichi.co.jpへ。
匿名、二重投稿はご遠慮ください。掲載分の著作権は毎日新聞社に帰属します。ただし、投稿者本人の利用は妨げません。毎日新聞の電子媒体にも掲載します。
■人物略歴
荒井敦子(あらい・あつこ)さん
1954年生まれ。大阪音楽大声楽科卒。82年に「まつぼっくり少年少女合唱団」を結成、国内外で公演を重ねる。わらべ歌を録音し音符で記録する「採譜」という活動で山村を中心に数多くの集落を訪問。2009年、NPO法人「音楽の森」を設立した。93年、サントリー地域文化賞受賞。日本音楽療法学会認定の音楽療法士。著書に永六輔さんとの共著「歌の力」。