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 今年のノーベル物理学賞に選ばれた真鍋淑郎(まなべ・しゅくろう)さんが、地球温暖化予測モデルを生み出すまでの経緯を名古屋大の広報誌「環」に語っている。印象的なのは「もし道草をしなかったら、僕の人生はかなり変わっていたに違いない」という述懐だ▲当時のテーマは気温や雨など大気の振る舞いを再現するコンピュータープログラムの開発だった。労作が完成し「ちょっと道草をしたくなって」二酸化炭素の濃度を入力してみたのが温暖化研究につながった▲横道にそれて時間を浪費するさまを「道草を食う」と言うが、道草は発見の重要な要素である。寺田寅彦は、せっかちな旅人が「途中の道ばたあるいはちょっとしたわき道にある肝心なものを見落とす」と、道草の効用を説いた▲立命館大客員教授の水月昭道(みづき・しょうどう)さんが著した「子どもの道くさ」(東信堂)は、小学生の下校に60回も密着し、その様子から道草を9タイプに分類した研究報告だ▲雑草を触り、石を蹴り、猫にちょっかいを出し、塀の上を歩き、秘密の抜け道を駆け抜ける。ある子は10分で行ける目的地に、道草しながら40分かけてたどり着いていた。「予定調和から外れた出来事を喜び自ら学ぶ。道草は子どもが輝く時間なのです」と水月さんは言う▲昨年度、コロナ禍で1カ月以上学校を休んだ子どもが3万人に上るとの国の調査結果である。確かに家にいれば安全だが、思いがけない発見の喜びからは切り離されてしまう。子どもたちに「道草する自由」を一日も早くと願う。

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