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無実知らずに病死した技術者の無念 「兵器」輸出の起訴取り消し

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相嶋静夫さんの墓前で手を合わせる大川原正明社長(左)と島田順司さん=横浜市旭区で2021年10月8日、遠藤浩二撮影
相嶋静夫さんの墓前で手を合わせる大川原正明社長(左)と島田順司さん=横浜市旭区で2021年10月8日、遠藤浩二撮影

 生物兵器に転用可能な装置を不正輸出したとされた化学メーカー社長ら2人の起訴を、東京地検が7月に取り消した。初公判4日前に検察側が自らの誤りを認める異例の事態だった。その陰で、一人の技術者が無実を知ることなく、被告の立場のまま病死した。「なぜこんな最期になったのか」。遺族や同僚は、名誉回復の闘いを始めた。

保釈されず、拘置所でがん判明

 「お父さんが逮捕された」。2020年3月11日、相嶋静夫さん(当時72歳)の長男(47)のスマートフォンに、妻から連絡が入った。相嶋さんは化学機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)の顧問だった。逮捕した警視庁公安部が告げた容疑は、同社が製造した噴霧乾燥器を、経済産業相の許可を得ずに中国に輸出したという外為法違反。公安部は生物兵器に転用可能な装置とにらみ、大川原正明社長(72)と、取締役だった島田順司さん(68)も同時に逮捕した。

 噴霧乾燥器は、液体を霧状にまいて付属のヒーターで熱風を送り、粉末にする機械。インスタントコーヒーや粉ミルク、医薬品などの製造に使われる。「人の幸せにつながる機械を作る父がなぜ?」。長男は事態がのみ込めなかった。

 3人は取り調べで容疑を否認したが、東京地検に起訴された。同年5月には韓国に輸出した疑いで再逮捕された。東京拘置所に収容された3人は保釈を請求したが、検察側は「証拠隠滅の恐れがある」と反対し、東京地裁は認めなかった。

 同年9月10日、相嶋さんは拘置所で、出血が疑われる黒い便を出した。同25日には貧血の症状が出て、輸血を受けた。症状は治まらず、拘置所内の病院で内視鏡検査などを受け、10月上旬に胃がんが判明した。

 刑事訴訟法は、病気などを理由に裁判官が勾留を停止できると定める。弁護側は、検査のため相嶋さんの勾留停止を申し立て…

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