がんの早期発見が減り、進行した状態の患者が増える恐れがある。新型コロナウイルスの感染拡大で、自治体が実施するがん検診の受診者数が低い水準にとどまっているからだ。
日本対がん協会の調査によると、今年上半期に検診を受けた人は、2019年同期より約2割少なかった。
コロナ第1波や緊急事態宣言の発令で6割以上減った昨年同期より回復したものの、コロナ前の水準には戻っていない。
対象者が、検診会場の混雑を心配して敬遠した可能性がある。自治体の担当者がワクチン接種やコロナ検査への対応に追われて、啓発活動などに手が回らなかったという事情もありそうだ。
日本では、毎年約100万人ががんと診断される。医療の進歩によって、早く治療を開始すれば治る病気になっている。早期に発見された胃がんや大腸がん、子宮頸(けい)がんの10年生存率は9割に上る。乳がんは99%だ。
ただし、がんは早い段階では自覚症状がほとんどない。だからこそ、検診を定期的に受けることが大切だ。
コロナ下であっても、がんになる人が減るわけではない。対がん協会は、受診率が2割減ると、約2万人の患者が見逃される恐れがあると試算する。専門医は「今後、進行した状態で見つかるがん患者が急増するかもしれない」と警鐘を鳴らす。
実際、心配なデータも明らかになっている。横浜市立大などが、がんの診断状況を調べたところ、早期の段階で胃がん、大腸がんが見つかった患者はコロナ前よりも少なかった。検診控えが影響しているとみられる。
発見が遅れて進行がんになると、治療の選択肢が狭まり、患者の負担は大きくなる。
対がん協会は「コロナ下でも検診は怖くありません」と呼びかける。多くの自治体は、検診を予約制にして会場が「密」になるのを防ぎ、マスクや手指消毒などの感染対策を徹底している。
国のコロナ対策は、感染を防ぎながら日常生活を取り戻す段階に入りつつある。がんの早期発見のため、検診の機会を十分に活用したい。