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熱海の土石流災害 なぜ市は動かなかったか

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 静岡県熱海市で7月に起きた土石流災害で、市は盛り土が崩落する危険性を認識しながら、有効な対策を取っていなかった。

 市は2011年、災害が発生する恐れがあると判断し、安全対策を業者に命じる「措置命令」を出すことをいったん決めた。だが、業者が防災工事に取りかかったことを理由に発令を見送っていた。

 ところが、防災工事はすぐに中断され、業者が市との協議に応じないまま、危険な状態が放置された。盛り土の安全性確保に欠かせない排水設備も未完成だった。

 災害では26人が死亡し、1人が行方不明のままだ。行政が必要な措置を取らなかったことが、被害につながった可能性がある。対応に問題がなかったか、徹底した検証が求められる。

 業者は、市の中止要請を無視して大量の建設残土を搬入し続けたり、産業廃棄物を違法に混入させたりするなど、問題行為を繰り返していた。

 そうした不誠実な態度を考慮すれば、市の対応は不十分だったと言わざるを得ない。ためらわずに措置命令を出し、従わなければ、市が代わって対策を施す「行政代執行」を検討すべきだったのではないか。

 県も一連の対応について市と協議を重ねており、現場が危険な状況にあることを把握していた。責任を免れない。

 盛り土規制の問題点も改めて浮き彫りになった。

 今回のように残土処理を目的にした盛り土は、主に各自治体の条例で規制されている。だが、罰則は自治体によってばらつきがあり、静岡県の場合だと20万円以下の罰金にとどまる。

 自治体からは条例で対処するには限界があるとの声が出ている。

 都市部で発生した大量の建設残土を、規制の緩い地域へ運び込んで処理する「残土ビジネス」は以前から問題となっていた。崩落事故が各地で起きている。

 にもかかわらず、全国一律で規制する法整備を進めなかった国の姿勢も問われる。

 住民の命を守るために、行政は対策を尽くしたのか。国や自治体は今回の災害を教訓に、再発防止に向けた取り組みを急がなければならない。

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