眞子さまも… 女性皇族を苦しませる「宮中」というプレッシャー

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天皇、皇后両陛下に結婚のあいさつをするため皇居に入られる秋篠宮家の長女眞子さま=皇居・半蔵門で2021年10月22日午後4時24分(代表撮影)
天皇、皇后両陛下に結婚のあいさつをするため皇居に入られる秋篠宮家の長女眞子さま=皇居・半蔵門で2021年10月22日午後4時24分(代表撮影)

 皇族もタイヘンだなあ……とつくづく思う。秋篠宮家の長女眞子さま(30)と小室圭さん(30)の結婚を巡る騒動である。「ふたりの好きにさせなよ」以外の感想は思いつかないのだが、週刊誌やネット空間では今なお「皇室評論家」みたいな人がぞろぞろ登場し、あれやこれやの攻撃が続くのだ。思えば皇室・皇族がバッシングされる時、ある「共通点」があった。天皇制研究の第一人者、原武史・放送大教授(日本政治思想史)と考えてみた。【吉井理記/デジタル報道センター】

 ――原さんは今回の騒動で、メディアでコメントすることはほとんどありません。沈黙を守っているように見えます。

 ◆正直、気が進みませんね。週刊誌やワイドショーはいろいろ報じますが、結局のところ「結婚に賛成か反対か」みたいな話ばかりですし、何より研究者として発言するには状況が流動的です。裏付けとなる史料や文書といった学問上欠かせないものも私は見ていない。

 ――え……。となると取材は……。

 ◆いえ、明治以降の皇室の歴史をたどって見えてきたものはあります。そういう観点であれば話はできる。

過去にも皇族の結婚巡る騒動

 ――良かった。歴史をたどる、とはどういうことでしょうか。

 ◆まず前提がある。皇族の結婚を巡るいざこざは、これまでも繰り返されてきた、ということです。「平成の時代までは問題が起きていないのに、令和になって問題が起こるようになった」といった論調がありますが、それは違う。例えば大正天皇です。皇太子時代に九条節子(さだこ)、後の貞明皇后と結婚しましたが、実はお妃(きさき)候補は別にいた。皇族の伏見宮禎子(さちこ)女王ですが、侍医の診断で「体調に問題がある」ということで婚約内定が取り消され、差し替えられた事件がありました。

 ――どういうことなのでしょうか。

 ◆明治天皇の伴侶、美子(はるこ)皇后(後の昭憲皇太后)には実子がいませんでした。明治天皇の子どもたちは大正天皇を含め、すべて側室から生まれています。これでは明治以前の側室制度と変わらず、日本が近代化したことを西洋列強に示す必要があった政府は、皇室が率先して(西洋と同等の)一夫一婦制を確立させていることを示そうとした。そのため、子どもを産めそうな女性が選ばれた、というわけです。そこに大正天皇の意思は全く介在していませんでした。

 ――ずいぶん露骨ですね。

 ◆一方、昭和天皇の皇太子時代には「宮中某重大事件」が起きています。久邇宮良子(ながこ)女王、つまり後の香淳皇后との婚約後、良子女王の家系に色覚異常があることが発覚するのです。天皇家の「万世一系」というのは、過去はもちろん未来も永久に男系の天皇が続くことを意味し、良子女王が皇太子妃になれば、「一系」に傷がつく。そう考えた元老の山県有朋を中心に婚約反対運動が展開され、結婚は延期になるのですが、昭和天皇は当初から良子女王に好意を抱いていたようで、反対の声に屈しませんでした。その後も関東大震災などで再三延期されますが、5年以上の歳月を経て結婚にこぎつけました。

 ――戦後は上皇后美智子さまの婚約時に皇族・旧皇族内でバッシングが起きたことが知られています。

 ◆その通りです。昭和天皇まではお妃は皇族・華族から選ばれていましたが、初めて「平民」から「お輿(こし)入れ」することになった。これに香淳皇后をはじめ、皇族や旧皇族の女性たちが婚約に反対するんです。旧皇族の梨本伊都子さんは婚約発表日の日記に「日本ももうだめだと考えた」と記したほど。ことほどさように、結婚ひとつとってもいろいろあったんです。

「しかるべきお家」に嫁ぐべきか

 ――そして今回の眞子さまの件です。例えば作家の林真理子さんは10月9日配信の「文芸春秋デジタル」の東大名誉教授・御厨貴さんとの対談で、「この数年で皇室がこんなことになってしまって」「眞子さまにはしかるべき人がふさわしいご結婚相手をご紹介すべきだったのでは」「(昭和天皇の第5皇女・島津貴子さんのように)みなさんちゃんとしかるべきお家に嫁がれていたんです」などと嘆いていました。

 ◆「しかるべきお家」というのは、本人の意思よりも家柄を優先させるべきだと言っているように見えます。ではそうしたとして、果たして結婚生活がうまくいくのでしょうか。例えば名前が出た昭和天皇で言えば、内親王の結婚相手は、いずれも旧皇族や旧華族で、結婚時には祝福されていたんです。でも三女和子さんは旧華族の夫・鷹司平通さんが行きつけの銀座のバーのマダムとガス中毒死した。「しかるべきお家の人」とか「しかるべき人が紹介する相手」とかと結婚しても幸福になるとは限りません。

 ――「幸福のかたち」は人それぞれですし、外か…

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