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日本の研究力の低迷が続いている。
文部科学省の調査によると、世界の研究者に多く引用される論文のランキングで、日本は過去最低の10位に落ち込んだ。中国が米国を抜いてトップに躍り出た。
岸田文雄首相は、成長戦略の第一の柱に「科学技術立国の実現」を掲げる。衆院選では与野党が研究への投資拡大や研究者の処遇改善を公約に盛り込んだ。
しかし、実利に偏った政策の方向性を変えないままでは、実現できるとは思えない。
2019年の官民の研究開発費は18兆円だった。この10年間、ほとんど増えていない。
政府は、限られた資金を有効に活用するとして「選択と集中」を進めてきた。すぐに成果が出る研究や、産業などに役立つテーマが優先されるようになった。軍事にも応用できる研究を推進する動きも強まっている。
国立大の運営を支える国の交付金が減り続けた結果、自由な発想に基づく研究に使える資金が不足している。
人材も先細りだ。任期制のポストが増え、研究者の身分は不安定になっている。博士号取得者は06年度をピークに減少傾向にある。
研究者の卵である大学院生も厳しい環境に置かれている。生活費や学費を賄うため、長時間のアルバイトを強いられる人が少なくない。
政府は今年度中に、10兆円規模の大学ファンドを始動させる。運用益を大学に配分し、研究や若手支援に充てるという。
ただし、経営手腕を持つ学長を置くなど組織改革を進めることが配分を受ける条件となる見通しだ。経営効率が優先されれば、幅広い研究の支援はおぼつかない。
科学は一日で実を結ぶものではない。何に役立つかすぐに分からなくても、将来、花を咲かせる地道な研究がある。
気候を予測するモデルの開発でノーベル物理学賞に決まった真鍋淑郎(しゅくろう)さんは「気候変動がこれほど問題になるとは夢にも思わなかった。好奇心で研究してきただけだ」と振り返る。
そもそも長い目で育てるべき科学技術を、成長戦略の手段と位置付けるのはそぐわない。実利最優先を改め、科学技術立国のあり方を中長期的な視点で議論することが求められる。