壮観! 万羽鶴に潜む大量死リスク 越冬地・出水平野、分散の挑戦

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出水平野を舞うツル=鹿児島県出水市提供
出水平野を舞うツル=鹿児島県出水市提供

 秋が深まり、繁殖地のシベリアなどで過ごしていたツルが冬を越すために日本に飛来している。中でも国内最大の越冬地である鹿児島県出水(いずみ)市の出水平野には、ピークになると1万羽を超えるツルがやって来て世界有数の越冬地となっている。なぜこれほど多くのツルが「一極集中」で出水平野に集まるようになったのだろうか。【足立旬子/鹿児島支局】

 10月18日朝、絶滅危惧種のナベヅル17羽が一面に広がる稲刈りが済んだ田んぼに次々と舞い降りた。今季の第1陣は、長旅の疲れを癒やすように黒い羽を休めていた。「今年も『万羽鶴』になるかな」。浜畑和花(のどか)さん(14)は笑顔で話した。

 浜畑さんは近くの小中一貫校、市立鶴荘(かくしょう)学園の生徒だ。鶴荘学園にはツルについて学ぶ独自の教科「ツル科」があり、飛来したツルを数える調査などツルの研究と保護に取り組んでいる。

好タイミングで保護、回復

 飛来数を数える羽数調査は鶴荘学園と市立高尾野中の「ツルクラブ」の生徒が中心となり、毎年11月から翌年1月にかけて計5、6回実施している。1960年に始まり、5、6回のうちの最大記録数が越冬シーズンの公式羽数として公表されている。今年1回目の調査となる11月6日には7865羽を数えた。

 2020年の冬には、記録が残る27年からでは最多となる1万7315羽が飛来。24季連続で1万羽を超えた。世界に15種いるツルのうち、ナベヅルやマナヅル、クロヅル、カナダヅルなど7種が飛来しており、人家の近くでこれだけ多くのツルが見られる場所は世界的にも珍しい。出水市のツル飛来地は今月にも、国際的に重要な湿地を保全する「ラムサール条約」に登録される見通しだ。

 ツルは日本では古くから縁起の良い鳥として親しまれ、江戸時代までは全国各地の田んぼや湿地に飛来していた。ところが、明治以降の乱獲や宅地開発により、多くの越冬地が失われた。さらに太平洋戦争の影響もあり、旧日本軍の航空基地があった出水市でも戦後直後は275羽まで落ち込んだ。

 国は52年に出水のツルを特別天然記念物に指定。それまでも、地元の有志が餌やりをしていたが、市や県などが62年に「県ツル保護会」を結成して組織的な保護活動を始めた。そのかいあって、73年には3000羽にまで回復。飛来数は徐々に増えていき、92年には1万372羽が記録されて初の「万羽鶴」となった。

 「広く見通しが良い」「海や川などの水辺がある」「人工構造物が少ない」。ツルが好む条件が整っているとされる出水平野。ただ、市のツル博物館「クレインパークいずみ」の原口優子・主任学芸主事は、これらの条件だけがツルを増やしたのではないとみている。「タイミング良く組織的な保護が始まったのも大きいと思います」

 また、シベリアから出水平野までの渡りルートの途中には韓国や中国の越冬地もあるが、両国でも開発やダム建設などの影響で越冬地が減っており、それでツルが出水平野に集まるようになったとの見方もある。

 出水平野でのツルの保護活動は今も続いている。国や県、出水市は72年以降、農家から田んぼを借り上げ、約104ヘクタール(東京ドーム22個分の広さ)を保護区域とし、強風や自動車のヘッドライトの光を遮るネットを張って、ツルが安心して過ごせるようにした。一部には水を引いて、ねぐらとして整備。早期米を刈り取って、稲株から出る二番稲をツルの餌にしている。

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