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ヤングケアラー

通学や仕事をしながら家族の介護をする子ども「ヤングケアラー」。将来が左右される深刻なケースも。

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人気医療漫画「リエゾン」が伝える、ヤングケアラーのリアル

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人気医療漫画「リエゾン」=東京都千代田区で、三上健太郎撮影 拡大
人気医療漫画「リエゾン」=東京都千代田区で、三上健太郎撮影

 子どもたちにどう分かりやすく伝えればいいのか――。政府が、家族の介護や世話を担う子ども「ヤングケアラー」の認知度向上を模索する中、厚生労働省が注目した漫画がある。青年漫画雑誌「モーニング」(講談社)で連載中の人気医療漫画「リエゾン」だ。児童精神科医らが発達障害や虐待など、さまざまな事情を抱える子や親と向き合う物語。今年6月から7月にかけてヤングケアラーを取り上げ、ストーリーは車いす生活の母の介護や家事で疲弊していく小6の女児を軸に展開した。支援策を検討する政府のプロジェクトチームのヒアリングに招かれた作者2人に、作品に込めた思いなどを聞いた。【山田奈緒、三上健太郎/デジタル報道センター】

原作の竹村優作氏「子どもの視点で書いた」

 児童精神科医が関わる事例や子ども支援などを調べる中で、ヤングケアラーという言葉を知りました。明確にテーマにしたのは今年の連載ですが、もっと前の連載初期、2020年春ごろにもヤングケアラーが登場します(1巻収録)。

漫画「リエゾン」ヤングケアラー編の一場面。政府が初めて全国の教育現場に実施した調査結果が紹介されている=(c)ヨンチャン・竹村優作/講談社 拡大
漫画「リエゾン」ヤングケアラー編の一場面。政府が初めて全国の教育現場に実施した調査結果が紹介されている=(c)ヨンチャン・竹村優作/講談社

 アルコール依存など精神疾患のある父と暮らす小学生の女の子です。作中でヤングケアラーという言葉は使いませんでしたが、SNS(ネット交流サービス)上に「あの女の子はヤングケアラーだよね」などの読者の反応がありました。社会の関心が高まってきていると感じましたし、国が全国調査する動きもあったので、改めてケアする子ども側の視点で書いてみようと。

 ただ、ヤングケアラーの大変さは伝わりづらい。「自分だって子どものころ買い物ぐらいした」「祖父母の介護をしている人も昔からいた」など、自らの経験や身近な物差しで「たいしたことない」と深刻さを測ってしまう人が多いからだと思います。「遊ぶ時間がない」「勉強する時間がない」というように、ちょっとずつ生活が侵食されていくつらさは想像が難しい。なので、漫画は分かりやすさを意識しました。

 ランドセルを背負う年ごろの子が車いすの母を介助しているというビジュアルは、インパクトが強い。ヤングケアラーの問題がダイレクトに伝わりやすいのではないかと考えました。体の小さい女の子が家事をする姿は読者の想像を広げられる。どれぐらいケアをしていたらヤングケアラーなのか、言葉の定義は曖昧でいいと思います。「リエゾン」に出てきたような子どももヤングケアラーなんだって、ふわっと捉えてもらうことで、自分の身の回りの人についても想像する余地が生まれてくれればいい。

漫画「リエゾン」1巻の一場面。小学生の女の子は、アルコール依存など精神疾患のある父のケアのため、学校に通えていなかった=(c)ヨンチャン・竹村優作/講談社 拡大
漫画「リエゾン」1巻の一場面。小学生の女の子は、アルコール依存など精神疾患のある父のケアのため、学校に通えていなかった=(c)ヨンチャン・竹村優作/講談社

 20代のころ、グループホームなど福祉施設で働きました。出会った家族を思い返すと、親が亡くなったらきょうだいに障害者の面倒を見るプレッシャーがかかるなど、家族が大きなケア負担を抱えるのは当たり前という感覚が福祉の現場にもありました。そんな中でSOSを出すのは難しい。だけど、人を頼る選択肢はいろいろある。だから、SOSを出していいと子どもたちに伝えたいです。周りの大人もヤングケアラーについて知ることで「家族が背負って当たり前」という認識を変え、SOSを受け止められるようになってほしいです。

    ◇

 物語では、小6女児の「異変」をスクールカウンセラー(SC)がキャッチする。さらに、SC自身の生い立ちや家族への思いも見えてくる。この展開は漫画を担当するヨンチャン氏の提案だった。

漫画「リエゾン」の一場面。小学6年生の女児(右端)が、小学校の登校前に車いすの母をリハビリ施設まで送っていく=(c)ヨンチャン・竹村優作/講談社 拡大
漫画「リエゾン」の一場面。小学6年生の女児(右端)が、小学校の登校前に車いすの母をリハビリ施設まで送っていく=(c)ヨンチャン・竹村優作/講談社

漫画家のヨンチャン氏「知ることで寄り添える」

 当初の脚本では、車いすの母親と女児のケースだけを描く予定でしたが、この親子だけではどうしても親側の気持ちが伝わりにくい。一歩間違えれば「ヤングケアラーがつらいのは、障害がある人のせい」などと、読者に思わしくない形で捉えられてしまうかもしれないと思いました。そこで、SC自身がヤングケアラーだったという設定で、SCの親子の振り返りも描く「二重構成」にして、ケアされる側の思いや気持ちに厚みを出し、漫画の中に落とし込もうと提案しました。

 「リエゾン」は、主に発達障害やさまざまな精神疾患を取り上げていますが、身体的な障害のある家族についても、ケアされる側と、ケアする側の双方の痛みや葛藤を描きたいと思っていました。ヤングケアラーという言葉を知り、このテーマならそれが描けると感じました。

 満足に動けなくなった絶望のあまり娘の気持ちが見えていなかったことに親が気付く場面や、ヤングケアラーだった子どもが将来の夢を見つけたことに親が心から喜ぶ場面があります。親子のやりとりを通じて、読者の視野が広がればいいと思いました。ケアする側、される側、どちらの気持ちも大切です。

漫画「リエゾン」ヤングケアラー編の一場面。小学6年生の女児が担うケアの内容を知った先生は、その負担についての認識を改める=(c)ヨンチャン・竹村優作/講談社 拡大
漫画「リエゾン」ヤングケアラー編の一場面。小学6年生の女児が担うケアの内容を知った先生は、その負担についての認識を改める=(c)ヨンチャン・竹村優作/講談社

 漫画でヤングケアラーを取り上げることになり、自分も子どものころを思い返しました。身近な家族に暴力を振るわれてつらかった経験があります。そうした経験は大人になってもアイデンティティーに影響することを身をもって感じています。子どもの時の記憶は一生にわたって影響する。だからこそ、どうしたら今後、子どもたちに良い環境を作れるのかを考えています。

 必要な支援やその情報が子どもたちに行き渡って、社会の人たちから見守られる形になってほしい。誰もが罪悪感なく支援を求められる社会になってほしいという思いを作品に込めました。作品に出てくるような状況は、自分のことかもしれないし、周りにいる人のことかもしれない。読者にも共感してもらいたい。解決じゃなくても、分かることで寄り添えるのではないかと思います。

    ◇

 「リエゾン」はヨンチャン氏と編集者で取材を始め、20年3月に連載がスタートした。竹村氏は3話目から加わり、脚本を担当している。監修医を加えたチームでテーマや物語の方向性を決めるなど、作品が出来上がるまでには作者と編集者たちが綿密に打ち合わせる。ヤングケアラー編を描くにあたっては議論の中で「(親族や近しい人たちが)今思えば、あの人もそうだったかもしれない」といった声も出たという。

漫画「リエゾン」ヤングケアラー編の一場面。ケアされる側の母の気持ちも丁寧に描いた=(c)ヨンチャン・竹村優作/講談社 拡大
漫画「リエゾン」ヤングケアラー編の一場面。ケアされる側の母の気持ちも丁寧に描いた=(c)ヨンチャン・竹村優作/講談社

 「実は身近」なヤングケアラーをリアリティーをもって伝えるため、学校のカウンセリングルームの場面などは監修を担当する児童精神科医、三木崇弘氏の意見を取り入れた。SCの経験もある三木氏は「子どもはまじめさゆえに相談できなかったり、先生は日ごろの業務が忙しかったりするため、学校現場でヤングケアラーを発見するには限界がある」と実感しているという。「学校の外にも啓発を進めてほしい。ヤングケアラーという言葉の広がりは、『身内の問題は身内で』のように『家族の責任』という考えに縛られる社会の風潮を解きほぐすきっかけになるかもしれない」と話している。

    ◇

 ヤングケアラー編(全5話)は12月発売予定の7巻に収録予定。オンラインでは、講談社の配信サイトで読むことができる。

竹村優作(たけむら・ゆうさく)氏

 ライター。1988年生まれ。2018年の「週刊少年マガジン×モーニング 第1回漫画脚本大賞」で奨励賞を受賞した。リエゾンでは原作を担当。

ヨンチャン氏

 漫画家。1992年生まれ。2017年、雑誌「モーニング」の新人賞「第4回THE GATE」で大賞を受賞。ボート競技を描いた「ベストエイト」でデビューした。

三木崇弘(みき・たかひろ)氏

 児童精神科医。1981年生まれ。2008年愛媛大医学部卒。東京都内のクリニックや児童相談所で勤務し、小学校のスクールカウンセラーも務める。

【ヤングケアラー】

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