原油などの価格上昇が世界経済の新たな懸念材料となっている。
米国では物価上昇率が4%超と30年ぶりの高水準になり、消費が落ち込んだ。中国では燃料費高騰で発電所が稼働を制限したため、操業停止に追い込まれる工場が相次いだ。この影響で米中の成長率は大幅に低下した。
日本もガソリン価格が7年ぶりの高値をつけ、電気代やガス代の上昇が続いている。円安の影響も加わり、牛肉や小麦などの輸入品が次々と値上がりしている。
背景には新型コロナウイルス禍がある。各国の経済活動が徐々に再開し原油などの需要が増えているが、供給が追いついていない。
長引けば、インフレと不況が重なる「スタグフレーション」という深刻な事態に陥りかねない。
心配されるのは、コロナ禍で苦しくなった暮らしにしわ寄せが及ぶことだ。
日本の場合、原油高が続けば、家庭の負担は年3万円以上も増えるという民間試算がある。とりわけ収入が不安定な非正規労働者やひとり親世帯などには切実だ。
営業時間の制限がようやく解除された飲食店も、食材のコストや光熱費がかさむと、経営が再び悪化する恐れがある。
国民生活がこれ以上痛まないようにする対策が急務だ。
原油高に歯止めをかけるには、コロナ禍で大幅に生産を減らした中東などの産油国が増産することが欠かせない。
主要20カ国・地域(G20)が先日開いた首脳会議では、米国が増産を呼びかけたが、G20全体としての具体策は示せなかった。
産油国は感染が再拡大して需要が減ることを警戒している。しかし原油高で世界経済が冷え込めば、自国の景気にも打撃となる。
日本は増産を促すだけでなく、化石燃料への依存度を減らす中長期的な取り組みも求められる。
食料品の値上がりは国際的な輸送費の上昇が響いている。感染による港湾の閉鎖や人手不足が原因という。各国でワクチン接種の加速が不可欠だ。特に遅れている途上国への供給拡大が急がれる。
家庭への経済支援も課題だ。フランスは低所得者らへの現金支給を決めた。日本政府も実態を把握し、必要な対策を講じるべきだ。