九州から宇宙へ 民間ベンチャー師弟の夢 小型衛星にのせ

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「人工衛星の開発を通じて八坂先生の知を受け継いでいきたい」と語る大西俊輔さん(左)と、「師匠」の八坂哲雄さん。後ろは人工衛星の実寸大実験機=福岡市博多区で2021年10月17日、徳野仁子撮影
「人工衛星の開発を通じて八坂先生の知を受け継いでいきたい」と語る大西俊輔さん(左)と、「師匠」の八坂哲雄さん。後ろは人工衛星の実寸大実験機=福岡市博多区で2021年10月17日、徳野仁子撮影

 小丸(おまる)川をせき止めた「石河内ダム」(宮崎県木城町)はなみなみと水をたたえていた。10月22日午後。このダムの上空約525キロの宇宙空間を直径約3・6メートルのパラボラアンテナをつけた人工衛星が通り過ぎた。福岡市に本社を置く民間の宇宙工学ベンチャー「QPS研究所」が開発した小型合成開口レーダー(SAR=サー)衛星「イザナミ」だ。

 「イザナミ」は地上に電波を照射し、返ってきた電波を解析して地上を観測する。カメラなどを搭載する光学衛星と異なり、地球の24時間のおよそ4分の3を占める曇りや夜間でもリアルタイムの撮影を可能にする。

 ダムを舞台に行われたのは、人工衛星を活用したインフラ管理の実証実験だった。九州最大の水力発電所の構造物に異常がないかをチェックするのが目的だ。

 SAR衛星の画像はカメラ画像と違って白黒で、構造物の素材や形状によって電波の反射状況が異なるため、透けたり、ゆがんで見えたりすることがある。画像から正確な情報を得るために、ドローンで撮影した映像と、人工知能(AI)を使って照合し、人や車、重機などを見分け、施設の構造物のゆがみなどの異変を察知するシステム作りを九州電力、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と目指す。

 ダムのほとりで実験の様子を見守ったQPS研究所の研究所長で九州大名誉教授の八坂哲雄さん(79)は期待を込める。「こうやって地上で見たものが、衛星を通してどう見えるのか楽しみ。我々の衛星が将来的に人々の生活の役に立てればこれに越したことはない」

 その頃、QPS研究所の最高経営責任者(CEO)、大西俊輔さん(35)は資金調達の正念場を迎えていた。今後新たに打ち上げる衛星の製作や打ち上げに向けた、投資家への説明のためだ。「海外を見ると十数基打ち上げているところもあります。レーダー衛星は多くを上げてリアルタイムで地上を観測することがメリット。ようやくスタート地点に立てたに過ぎません」

インフラ管理、災害把握にも

 九州大出身の大西さんは、九州の宇宙開発の第一人者である八坂さんの「最後の弟子」となる。祖父と孫ほど年が離れた師弟が今にもつぶれそうな会社の事務所の片隅で始めた衛星開発は、飛躍の時を迎えている。

 QPS研究所は2019年12月に国内初となる小型SAR衛星1号機「イザナギ」を打ち上げた。今年1月に打ち上げた2号機「イザナミ」が3月に地上の画像化に成功。5月には70センチ四方の物体を見分けられることを意味する分解能70センチを達成し、世界のトップ集団に名乗りを上げた。

 衛星1基は1周90~100分で地球を周回する。来年にはさらに改良を加えた4基を打ち上げ、25年以降に、国内ではほとんど前例がない36基体制のコンステレーション(英語で「星座」の意)構築を目指す。夜間や天候不良であっても、地球をどこでも10分以内に観測するのが目標だ。

 用途はインフラ管理にとどまらない。大西さんは「地震や豪雨などの自然災害では、悪天候や夜間などで飛行機やドローンが飛べない状況であっても、衛星ならば迅速に被害状況を把握できます」と説明する。その上でこう強調した。「観測された人やモノの動きなどをビッグデータとして蓄積すれば、人やモノの未来の動きを予測することも不可能ではありません」

資源、東京一極集中に一石

 電波で地上を観測するSAR衛星は多くの電力を必要とするため、小型化が難しいとされてきた。鍵となる技術は宇宙空間で開くパラボラアンテナだ。限られた電力で電波を放出し、返ってきた電波を受け止めるには大型アンテナが有利となる。だが、アンテナを開いた状態で打ち上げれば多くのスペースを取り、コストもかさむ。

 そこで八坂さんたちは閉じた状態で打ち上げ、宇宙空間で素材の伸縮力を使って開くアイデアを思いついた。地域の企業とともに約5年かけて完成にこぎ着けた衛星は、重さ約100キロと従来の約20分の1、費用は数億円と従来の約100分の1を達成した。

 これまで宇宙開発をけん引してきた政府系機関や大手メーカーと対比され、民間の宇宙ベンチャーは「ニュースペース」と称される。各国で規制緩和が進み、ロケットや人工衛星開発、宇宙空間利用など、宇宙を目指し巨額のマネーが流れ込む。米国の大手投資銀行は、宇宙ビジネスの市場規模は17年の約40兆円から40年には約110兆円に拡大すると試算する。

 一方、国内では人、モノ、カネの資源が東京に集中する構造が宇宙分野も例外ではない。八坂さんはそんな現状に疑問を感じる。「本来はいろいろなところに拠点があって多様性を発揮することが望ましい。一極集中では日本の発展は限界を迎えてしまう。境界がない宇宙開発では特にそうあるべきです」

 社名のQPS研究所は「Q―shu Pioneers of Space」の頭文字から名付けた。その名の通り「九州の宇宙の開拓者」として突き進む研究者師弟の挑戦を追った。

地元企業へ呼びかけ 共感広…

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