病児の「今」を豊かに 横浜に「こどもホスピス」 医師が語る意義

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柳澤隆昭・東京慈恵会医科大教授=東京都港区の同大で2021年10月26日、宇多川はるか撮影
柳澤隆昭・東京慈恵会医科大教授=東京都港区の同大で2021年10月26日、宇多川はるか撮影

 横浜市金沢区で21日、「こどもホスピス」がオープンする。小児がんなど重い病気や障害などを抱える子どもや家族たちが、遊んだり学んだりしながら、ゆったりと過ごすことができる施設だ。小児がん「脳幹部グリオーマ」で次女を亡くした田川尚登さん(64)がNPO「横浜こどもホスピスプロジェクト」を設立するなど、7年かけて支援の輪を広げた。国内ではまだ珍しい「こどもホスピス」。期待される意義や役割について、小児がんを患う多くの子どもの治療に当たり、同NPO理事として田川さんを支えてきた小児科医、柳澤隆昭さん(東京慈恵会医科大・脳神経外科学講座教授)に聞いた。【宇多川はるか/デジタル報道センター】

医療が提供できない大切な時間を

 ――「こどもホスピス」は、在宅や入院中の病児や家族にとって、自宅と病院の中間のような存在になり、病児が生きている「今」を豊かにする場所を目指しています。どのような思いで、プロジェクトを応援してきたのでしょうか。

 ◆田川さんとは、脳腫瘍の子どもの家族らの会合やキャンプなどで顔を合わせて知り合い、「こどもホスピスを設立したい」と伺った時、強く共感しました。1995年から3年間、イギリスで小児腫瘍科医をしていたのですが、イギリスでは既に「こどもホスピス」が根付いていました。重症の子どもに対しても、自宅など病院以外の場所でのケアが実践されていて、とても理想的に見えました。

 医者としては当然、「病気を治したい」と思っています。だけど、残念ながら現代においてもなお、「脳幹部グリオーマ」のように、命を脅かす病気があります。また、命に関わらなくても、重い障害が生涯残るものもあります。どんなに医療が手を尽くしても、そういう病気を抱える子どもたちがまだまだいます。

 そうした子どもたちが毎日を生きるには、ケアが欠かせません。そのケアがなかなか簡単なものではない。症状が日々悪化することもある。そんな毎日の24時間のうち、子どもたちにとっても家族にとっても、2時間でも3時間でも心地よい時間が流れた方がいい。「その数時間があれば生きられる」という時間はきっとあって、そういう時間を支える働きがもっともっと必要だと思っています。

 ――それが「こどもホスピス」が担おうとしている、子どもと家族にとっての「小児緩和ケア」になるのでしょうか。

 ◆そうですね。ケアの部分では、鎮痛など症状緩和の医療的行為だけが効果を発揮するわけではないと思います。子どもはどんな状態であっても、どんな時だって、音楽を聴いたりスポーツをしたり、楽しいことや好きなことをたくさんやりたい。そんな時間を支えるのもケアだと思います。時には他者からの何気ない働きかけも大切なケアを担うでしょう。気遣うようなまなざしや言葉が、きれい事ではなく、本当に一日を光あるものに変えることもあると思うのです。

 医療者の仕事は「病気を治すこと」が第一の役割ですが、多くの場合は「これだけ治ったら終わり」というものではなく、治った後も何らかの症状が続いたり、不安を抱いたりすることがあるものです。そこに医療者としてどれだけ向き合うかは、それぞれの医療者のスタンスにもよるし、差があります。理想的なことを言えば、そうした状況へのケアも含めて医療行為のはずです。しかし、高度医療が発展する中で、現場は忙しくてそこまで行き着かない。ケアの必要性を前面に打ち出すことがはばかられるぐらいのスピードで、医療が動いている部分もあります。

 そうした現代の医療が提供できていない部分を補い、大きな役割を果たしてくれるのが、「こどもホスピス」だと…

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