連載

余録

毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

連載一覧

余録

水戸学の大家で…

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷

 水戸学の大家で尊皇攘夷(じょうい)思想の基盤を作った藤田東湖(ふじたとうこ)は1855年の安政の大地震の際、水戸藩江戸屋敷の倒壊で圧死した。NHKの大河ドラマにも登場したが、くしくも11日が主人公の渋沢栄一(しぶさわえいいち)と同じ命日だった▲幕末の志士に愛された東湖の漢詩が「文天祥(ぶんてんしょう)の正気(せいき)の歌に和す」である。文天祥は中国・南宋の政治家で元(げん)と戦って捕らわれ、服従を拒否して処刑された。東湖には模範的人物だったのだろう。手本にした「正気の歌」は獄中で書かれた漢詩で中国史上の愛国者を列挙している▲権力者にこびず、事実を曲げずに記録した史官が含まれるのが興味深い。春秋戦国時代に有力者の君主殺害をそのままに記録した史官もその一人だ。処刑されたが、後任者たちも筆を曲げず、有力者側が根負けしたとされる▲歴代王朝の正史も後代の王朝が記録してきた。為政者が自ら記録する歴史より客観性が担保されるからだろう。それほど歴史を重視する中国ならではの政治である。中国共産党中央委員会総会で40年ぶりの「歴史決議」が採択された▲毛沢東、鄧小平時代に次ぐ3度目の決議は共産党100年の歴史を総括し、習近平氏主導の新時代の幕開けを告げる狙いという。だが、成功をうたい上げるだけでは中国人が誇りにしてきた筆を曲げない歴史の記録とは程遠い▲習氏への権力集中も進みそうだ。おもねらずに直言できる「諫官(かんかん)」や後世の史家をおそれる緊張感を欠けば、独善に陥りかねない。中国の変化の行方を注視したい。

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の特集・連載
すべて見る

ニュース特集